就職戦線異状あり――。

 学生からダントツの人気を誇る総合商社には、今年も応募が殺到しており、採用担当者はさぞご満悦かと思いきや、予期せぬ現象の対応に苦慮しているらしい。これまで女性社員が担ってきた事務作業など補助的な業務を行う「一般職」に男子学生が応募してくるというのだ。

 不況が深刻化した1990年代後半、各商社は正社員の一般職採用を凍結して派遣社員に切り替えてきた。しかし事務作業の高度化などによって有期で非正規雇用の従業員に任せにくい業務が増えたことから、三菱商事を除く大手商社はここ数年で相次ぎ一般職採用を復活させてきた。来年度には三菱商事も再開させる予定だ。

 ここでネックになったのが、2007年に施行された改正・男女雇用機会均等法である。従来の女性に対する差別を禁止する法律から、男女双方に対する差別を禁止する法律に変わったことで、女子学生に絞った一般職の採用はできなくなり、形式上は男子学生にも一般職への門戸が開かれた。

 そこに目を付けたのが安定志向の男子学生たちだ。2007年に一般職の採用活動を再開した丸紅には、採用枠約30人に約5000人もの応募があり、そのなかに「数%の割合で男子学生がいた」と同社人事部は明かす。

 他の総合商社も同様で、2002年にいち早く再開していた住友商事には毎年10人程度、ここ1、2年で復活させた三井物産、伊藤忠商事、双日にも割合こそ多くないが、男子学生からの応募が一定数あるという。「今年になってさらに男子の応募が増えた」という商社もあった。

 就職情報サイト「マイナビ」の栗田卓也編集長は「学生の会社選びは今まで以上に多様化してきており、昇進や昇格に興味を示さないタイプの学生が増えているからでは」と一般職志望の男子学生について分析する。

 資源高を背景に最高益を更新してきた総合商社の就職人気は過熱しており、ダイヤモンド・ビッグアンドリード社の調査によると、3年連続首位の三菱商事を筆頭に、ここ数年5大商社すべてが文系男子の就職人気ランキングでトップ10入りしているほど。一般職でもいいからと考える男子学生がいても不思議ではない。実際に面接まで進んだ男子学生も存在するという。

 大手商社に総合職として入社した中堅の女性社員は「男女雇用機会均等法ができた1986年と逆の現象が起こっているだけで、おかしなことじゃない」と好意的だ。

 ただ、「採用しないというわけではないが、経験がなく一般職の男性社員をどう扱っていいのか分からない」(大手商社採用担当者)と企業側は困惑を隠せない様子で、その実現はまだ難しいといわざるを得ない。

 大手商社での男子学生の一般職採用数は今のところゼロだ。総合職の女性社員を一般職の男性社員が補助する、そんな光景が商社で見られるのは、まだまだ先のようだ。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 山口圭介)