「300ドル差し上げますので、クレジットカードを解約してください」――。
米アメリカン・エクスプレス(アメックス)が一部の会員に対し、このような内容の案内を送っていることが話題を呼んでいる。
その内容は、今年2月末までに退会の意思表示を行ない、4月末までに残高を支払えば、300ドルのプリペイドカードがもらえるというもの。ちなみに、4月中に残高を支払わなくても口座は解約される。また、退会の意思表示をした段階で貯まったポイントは無効になるため、意思表示する前にポイントを使う必要がある。
「極めて異例」(関係者)というこの事態の背景には、米国の失業者の急増や経済の急速な悪化によってクレジットカードの延滞や貸し倒れが急増していることがある。健全とされる貸倒損失率は4~5%とされるが、最近ではこの指標が2桁に近づきつつある。
米アメックスも例外ではない。これまで同社の貸倒損失率は他社に比べて低かったが、今では他社とさほど変わらない水準になっている。昨年12月の貸倒損失率は7.2%だったが、今年1月には8.3%、2月には8.7%と月を追うごとに上昇し続けているのだ。また、「将来的には2桁を越えるのではないか」(関係者)との見方もある。
これらの状況から米アメックスは、今後貸し倒れリスクが高そうな顧客に対し、解約の案内を送っているとみられる。
とはいえ、残高を一気に支払う必要があるものの、会員にとってはメリットが大きそうな話である。だが、事はそう単純ではない。
日本と違って米国では「クレジットスコア」が重要視されるためだ。これは、クレジットカードの利用や返済の履歴、いわゆるクレジットヒストリーの評価によって付けられるスコアのことである。このスコアが低いとリスクが高い人物とみなされ、たとえば、住宅ローン金利が高く設定されたり、就職、昇進などにも影響する。つまり、今回の件は、このクレジットスコアに影響が出るのだ。
たとえば、多数の業者が採用しているFICOスコアでは、クレジットスコアを判定する基準の3割が、与信総額に占める借入額の割合だという。これは、一定の借り入れをしながら、きちんと返済していることが重要だという考え方に基づくもので、与信総額に対して50%以内の借り入れが望ましいとされる。
今回の場合でもカードを解約すれば、その分与信総額が減り、借入額の割合が跳ね上がる。つまり、スコアは下がってしまうのだ。これらクレジットスコアに影響を与える動きには、消費者からの反発が予測され、物議を醸すことにもなりそうだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 藤田章夫)