この夏、法科大学院関係者をあっと驚かせる珍事が起こった。

「2年短縮(法学既修者)コースの入学者には全員“学費等”の全額に相当する奨学金が給付されます。」

 青山学院大学が、こんな募集要項を出したのだ。「法学既習者」とは法学部出身者のこと。有り体に言えば、学費を実質的にタダにすることで、新司法試験に合格する可能性が高い法学部出身の成績優秀者を集める試みであろう。

 背景には、新司法試験の合格率の低さがある。法科大学院修了者を対象とする新司法試験の合格率は2割程度。当初想定されていた医師国家試験並みの7~8割を大きく下回った。
 
 新司法試験合格者の能力不足も問題視されている。試験合格者は最高裁判所で司法修習の後に再度試験を受けて晴れて法曹資格を得るのであるが(この試験は2回試験と呼ばれる)、この試験に落ちる修習生の割合は長らく1~2%程度だった。

 ところが、2007年末に判明した2回試験の結果を見ると、旧試験組の不合格率が4.8%に対して新試験組7.2%。新試験組は法科大学院第一期生で全員が法学部出身者だが、それでも旧試験組に大差を付けられてしまっているのである。

 質の低下に危機感を抱いた弁護士団体は相次いで新司法試験の合格者数を増やす政府方針見直しを迫っている。すでに弁護士の就職難も顕在化しており、法科大学院の先行きに明るさはない。

 2007年度の新司法試験では、合格率1割に満たない法科大学院が4校もあった。志願者は、この合格率を最も重要な選択基準としている。合格率が低くなれば、志願者は集まらない。事実、すでに定員の8割を満たせない法科大学院が16校もあり、じつに全体の2割強に達しているというから驚きだ。

 合格率を上げる「禁じ手」はあるにはある。大学院が徹底的に受験対策を講じることだ。しかし、新司法試験と法科大学院誕生のそもそものきっかけは、まさしく受験テクニックの横行にある。文部科学省も弁護士界も受験予備校化に関しては厳しく監視しており、受験対策に熱心だった某大学院には改善指導も下されている。