この10月末、神奈川県相模原市が来春、政令指定都市に昇格することが閣議決定された。しかし、同市の政令市昇格に首を傾げる向きは少なくない。

 相模原市は東を東京都のベッドタウンである八王子市や町田市と接し、北は多摩ニュータウン、東は小田急小田原線の延長として広がっていった住宅地。政令市のイメージとはかけ離れている。

 そもそも政令市とは、日本における大都市を意味したはずであり、制度の目的も大都市の育成にあった。対象は歴史があり、街の顔となるシンボルがあり、人が集まる磁力がある都市であり、明文化はされていないが「将来、人口が100万人を超える見込みがある」というハードルもある(法律上の要件は50万人以上)。相模原市には、そのどれもない。

 では、なにゆえに政令市として認められたのか。じつは、平成の大合併を促すために、合併市に限って人口要件が80万人→70万人に緩和されているからだ。相模原市の人口は71万2318人(10月1日現在)で、ぎりぎりこの基準をクリアしている。

  相模原市の政令市昇格への執念は相当なものだった。10年前には隣接の町田市と県境を超えた合併を模索するも立ち消えになり、今回は相模湖周辺の旧津久井郡4町と強引に合併することで70万人の要件を満たし、政令市昇格を勝ち取った。

  だが、ある首長経験者は「理解できないことばかり」と解説する。背負った借金、行政効率の悪化などのデメリットを勘案すれば、政令市になる意味など見いだせないからだ。

 政令市は県並みの権能を持った自治体に昇格することを意味する。その代わりに、負担も県並みだ。国道県道などの管理権や税源が委譲される一方で負担金も付いてくる。政令市昇格によって差し引きでは230億円を超える支出超過となり、市はその分を貯蓄の取り崩しと市債発行(つまり借金)でまかなう予定だという。

 しかも、政令市昇格のために合併した旧津久井郡は山梨県と境を接する山間地帯。合併によって、まったく非効率な山間地の行政サービスを抱え込んでしまうことになる。住民にとっては自治体のサイズが大きくなりすぎて、声が届きにくくなる。

 さらに、相模原市に本拠を置くトヨタ自動車の生産子会社、セントラル自動車の宮城移転が来年秋に控えている。本社の社員と家族だけで4000人が転出すると見られており、ギリギリ超えた人口要件も、じつは現状維持が精一杯なのだ。

 同市の政令指定都市ビジョンのサブタイトルは「首都圏南西部の活力ある広域交流拠点都市をめざして」。その目玉となるのがリニア中央新幹線の駅誘致だというから洒落にならない。

 巨額の借金を背負ってまで政令市に昇格する必要がはたしてあったのか。政令市への昇格が住民のためになるのか。「政令市のブランドが欲しかっただけ、それしか考えられない」(元首長)というのでは、明らかにおかしい。政令市の意義が問われている。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 千野信浩)

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