「痛みを伴うプロセスだが、グローバル市場でリーダーであり続けるために必要なステップだ」――。
日本時間12月9日午後、ソニーのハワード・ストリンガー会長と中鉢良治社長は、全社員に向け電子メールで緊急メッセージを発信した。「痛み」とは、全世界16万人の従業員の5%に当たる8000人(非正規社員を含めると1万6000人超)の人員削減、57ある製造拠点の1割削減など、エレクトロニクス事業の収益性改善に向けたリストラを指している。
2007年度まで3年間の構造改革を経て業績が回復基調にあったソニーだが、今年9月、事態は急変した。米国金融危機に端を発した世界同時不況が、売上高の八割を海外が占めるソニーを直撃したのだ。景気減速による販売不振と急激な円高の影響で、08年度の営業利益を57%減の2000億円に下方修正。再び、過酷なリストラを迫られることになった。
足元の市場環境はさらに厳しさを増している。米国はクリスマス商戦の真っただ中だが、「薄型テレビは、価格を下げても思ったほど数量が出ない」(原直史・ソニー業務執行役員)状況だ。
欧州では、急激な円高ユーロ安を受けて、来年1月から一部製品の値上げに踏み切る。販売鈍化は必至だ。仮に、現水準の為替レートが続けば、今期の営業利益はさらに約900億円悪化する見込みで、状況次第では再度の業績下方修正の可能性も否定できない。
「会社が厳しいのはわかる。でも、またリストラか、という思いもある」(中堅社員)。従業員1万人、製造拠点11ヵ所の削減を含むリストラを完了してまだ一年もたっていない。「想定以上の環境悪化が、構造改革の効果を打ち消してしまった」(原業務執行役員)とはいえ、たび重なるリストラで、従業員の士気低下も懸念されている。
今回発表されたリストラは、投資見直しや固定費削減が主で、急場を凌ぐものでしかない。ソニーに今必要なのは、こうした場当たり的なリストラではなく、環境変化に動じない、体質強化につながる抜本的な構造改革だ。それなくして、業績低迷から抜け出す道筋は見えてこない。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 前田 剛 )