「昨年のような惨憺たる状況とは大違いで、北米、欧州、中国でのプラズマテレビ販売は好調である。今年度は数値目標を達成できそうだ」(松下電器産業幹部)
松下の2008年度のプラズマテレビの販売目標は、600万台。この第1四半期(4~6月)の堅調な滑り出しを受けて、来年度の販売計画を800万台に据えることが検討されている。昨年度は、販売目標の500万台を下回る425万台に終わり、2007年の薄型テレビの世界市場シェアは6位と不本意な結果だった。
パイオニアのパネル生産撤退、日立製作所のリストラ、韓国LG電子の追加投資の凍結――。プラズマテレビ市場の失速を印象づける競合各社の縮小均衡が次々に明らかになるなかで、プラズマテレビ首位の松下が孤軍奮闘しているかたちだ。
市場規模を見れば、すでに液晶陣営の優勢、プラズマ陣営の劣勢ははっきりしている。米ディスプレイサーチの予測でも、2008年の液晶テレビ市場は1億0490万台、プラズマテレビ市場は1370万台で、薄型テレビ市場の9割は液晶で占められることになる。
松下とて、この状況を予期していなかったわけではない。韓国サムスン電子、ソニー、シャープが液晶へ傾斜する過程で、「液晶パネルとプラズマパネルとの技術的な優劣ではなく、液晶・プラズマ陣営の企業体力の強弱こそが、薄型テレビの市場動向を決める。そうなれば、プラズマ陣営の劣勢は否めない」(松下幹部)と。
今から2年前の夏のことである。松下のデバイス部門の幹部が、密かにソニーテレビ事業本部幹部の元を訪れた。「松下のプラズマパネルを買ってもらえないだろうか。もう一度、プラズマテレビの生産を検討してほしい」。
松下は自社製パネルの供給を、あえて宿命のライバル、ソニーに持ちかけることで、プラズマテレビ市場全体の活性化を狙ったのだ。
もっとも、2004年にプラズマ撤退の決断を下していたソニーにしてみれば、しょせん無理な相談だった。松下の乾坤一擲の策はあえなく崩れ去ったのである。
あれから2年。ようやく復調しつつある松下は、強気な姿勢を取り戻している。2800億円を投下するプラズマパネルの新工場、尼崎第五工場の増産計画は予定どおり続行、来年5月の稼働に向けて大詰めの作業に入っている。
4月にプラズマ事業で提携したパイオニアから、400~500人の技術者を動員しており、両社の技術陣が画像技術のすり合わせをしているところだ。パイオニアの技術力にはかねて定評があり、「色の表現力では、われわれより優れている。その技術を吸収したい」と松下幹部は言う。パイオニアとタッグを組み、虎視眈々(たんたん)と薄型テレビ市場における復権を狙っている。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 浅島亮子)