日本生命の障がい者雇用の歴史は、1993年の特例子会社「ニッセイ・ニュークリエーション(NNC)」設立にさかのぼる。人事部長の河村隆文執行役員は、NNC設立の背景を次のように説明する。

企業の成長に生かす【多様な人材雇用戦略】日本生命保険
河村隆文 執行役員 
人事企画部長 兼 人事部長

「NNCは保険業界における先駆的な取り組みとして、障がいのある人が安心して働ける場を提供する目的で設立されました」

その後、同社は2007年にさらなる一歩を踏み出す。障がいのある人を本社でも正職員として受け入れる「サポートパートナー」という雇用職制を新設したのである。

「障がいのある人への合理的配慮を一層行き届かせる観点から、特例子会社に頼るだけではなく、日本生命本社でもしっかり雇用することが重要だと考えたからです」(河村執行役員)

そのために、本社職員の希望者向けにNNCの業務説明や見学会を年2回開催し、障がい者雇用を会社全体で理解する努力を積み重ねている。

現在、NNCには約400人の障がいのある職員が所属しており、日本生命本社(東京・大阪の本店本部・全国の支社)でも約600人のサポートパートナーが在籍している。障がい者の雇用率は、法定雇用率2.5%を上回る2.76%(25年4月1日現在)に達している。

DE&Iを支える現場の仕組みと運用体制

同社の障がい者雇用において特に注目すべきなのは、それを単なる社会的責任や法令順守にとどまらず、企業の持続的成長に欠かせない戦略的な取り組みと位置付けている点である。

企業の成長に生かす【多様な人材雇用戦略】日本生命保険
人事部 本店人事G
竹岡弥生 本店人事課長

本店人事Gの竹岡弥生・本店人事課長はこう語る。「当社では、多様な人材がそれぞれの強みを生かすことが、企業の持続的成長の源泉であると考えています。これは、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)の理念そのものであり、障がい者雇用にも一貫して当てはまるものです」。

DE&Iは、人材の多様性を尊重し、公平な機会を提供し、誰もが活躍できる組織づくりを目指す考え方である。同社では、視覚・聴覚・内部・知的・精神といった多様な障がい特性のある人材を積極的に採用している。

「このような多様性が、社内の柔軟な発想や対応力を高め、結果としてより多様な顧客ニーズに応えられる体制づくりに寄与しています」(竹岡課長)

企業の成長に生かす【多様な人材雇用戦略】日本生命保険
人事部 本店人事G
澤田敬太 課長補佐

「当社では障がいのある人を雇用する際に、一人一人の特性を尊重する丁寧な配慮があります」と、本店人事Gの澤田敬太課長補佐は話す。

「特に重視しているのは、各所属でのきめ細かな対応です。それぞれの障がい特性に応じた職場環境整備や職務付与を行っています」

具体的には、約300の所属ごとに障がい特性・経歴・性格を丁寧に見ながら配属先を検討し、配属前には所属長と人事部が擦り合わせを行う。

「例えば、支社では所属長自らが面接を担当し、配属後もチームとのマッチングや定期的な面談を通じて、働きやすさを確保しています。マルチタスクが苦手な人や、口頭の指示が分かりにくい人には、それぞれに適した工夫を施しています」(澤田課長補佐)

同社の障がい者雇用の大きな特徴は、全ての部署で「共に働く」スタイルを徹底している点にあると竹岡課長は強調する。

「障がいのある方だけの専管チームをつくるのではなく、それぞれのチームの一員として活躍していただいています」。そのため座席の配置にも配慮し、感覚過敏がある人には端の席や仕切りのあるスペースを用意するなど、集中できる環境を整備している。

澤田課長補佐が続ける。「定着支援としてジョブコーチを配置し、障がい特性に応じたサポートを行っています」。

ジョブコーチは、所属長や業務担当者と連携し、職場での困り事や不安に対して、適切な橋渡しを行っている。社内報では活躍するサポートパートナーのインタビューを継続的に発信しており、竹岡課長によれば、「共に働く職員からは『刺激になる』『視野が広がった』といった声も寄せられている」という。

この「共に働く」スタイルの徹底により、担当する仕事の幅も自然と広がり、ExcelやPowerPointなどOffice 365を用いた業務や、ホームページ・採用パンフレットの制作協力など、多様なフィールドに及ぶ。仕事の幅が広がり、共に働く機会が増えることで、意識改革や相互理解にもつながっている。

企業の成長に生かす【多様な人材雇用戦略】障がい者雇用について説明した「入社案内」。NNCのメンバーと本店人事Gで働くサポートパートナーが制作に参加した

活躍の場は支社から本部へ。専門性の高い配置へ進化

障がいのある職員が長く安心して働けるように、無期雇用を基本とし、残業なし・時短勤務も可能な勤務制度を整備している。昇給や退職金、休日・育児・介護休業など、ライフステージに応じた支援制度が利用できる。さらにキャリア支援として、「資格取得奨励制度」も用意。資格取得に対し一時金を支給するなど、職員の意欲や成長を支える環境も整っている。

今後、日本生命は障がい者雇用をさらに戦略的に推進していく方針だ。従来は主に支社での配属が中心だったが、今後は本部への配置を拡大し、より専門性の高い部署でも活躍の場を広げていくと河村執行役員。

「今年度より、海外事業部門に新規配置を行いましたが、資産運用部門などの領域とも配置に向けた協議を進めているところです」

サポートパートナーの採用では新卒・既卒の双方での採用を行っており、特に新卒採用については、25年4月1日入社が9人。新卒職員には、早期から業務理解や社会人基礎力を高める機会を提供し、将来的な活躍を後押ししている。

「誰もが働きがいを持ち、専門性を発揮できる環境を通じて、障がいの有無にかかわらず多様な人材が共に成長できる組織を築く」。河村執行役員の言葉は、同社の障がい者雇用の理念と実践を象徴している。

●問い合わせ先
日本生命保険相互会社
〒541-8501 大阪府大阪市中央区今橋 3-5-12
https://www.nissay.co.jp