【第9回】 2009年02月12日
「早く職場に戻りたい」――復職を願う「ウツ」休職者に潜む落とし穴
――「うつ」にまつわる誤解 その(9)
このところの急激な景気悪化により、雇用情勢が極端に厳しいものになってきていますが、これが「うつ」等の事情で休職中の方々にとっても、強く焦りを生じさせることになってきている傾向があるようです(ダイヤモンド・オンライン「inside 第262回記事」参照)。
そこで今回は、「復職」を急ぐ気持ちについて考えてみたいと思います。
焦ってなんか
いないのに!
Yさんは大手メーカーの企画開発チームのリーダーですが、半年前から「うつ病」の診断で休職中です。
当初はどうにも動けないくらいの状態でしたので、自宅療養も致し方ないと思って休養に専念する気持ちでいました。しかし、3ヵ月ほど経った頃から、抑うつ気分・意欲減退・疲労感・睡眠障害などの自覚症状が軽くなってきて、1日も早く職場復帰したいという気持ちが徐々に強まってきたのです。メンタルクリニックへの通院間隔も、状態が落ち着いてきたということで、毎週だったものが隔週で済むようになっていました。
Yさんは、そろそろ「試し出社」ぐらいできそうだと強く思うようになり、休職も4ヵ月が過ぎた頃、思い切って主治医に復職への気持ちを話してみることにしました。すると、主治医からこんな答えが返ってきたのです。
「確かに、状態は確実に良くなってきてはいます。でも、まだ復職のことを考えるのは早いと思います。会社のことを今は考えずに、もうしばらく自宅療養を続けた方がいいと思いますよ」
これを聞いたYさんは、納得がいきません。
「もう十分元気になっていますし、出社できる自信もあります。家でゴロゴロしている方が、私にはかえってストレスなんです。私がいなければ進まないプロジェクトもありますし……。もうしばらくって、いったいあとどれくらいなんでしょう?」
「今はまだ、Yさんは焦っている感じがします。その焦りがなくなったらということです」
「全然、焦ってなんかいないつもりなんですが……」
結局、この時点では主治医から復職の許可がもらえず、Yさんは今でも自宅療養を継続しています。しかし、主治医に言われたような「焦り」が自分にあるとは感じられないので、今でもYさんは、どこか釈然としない気持ちが続いています。
「焦り」という説明では
伝わらないこと
このYさんのケースに限らず、復職の時期をどう見極めるかということは、医師側の見立てと患者さん自身の気持ちとが食い違いを生じやすく、治療の流れの中でも難しいポイントの1つです。
このYさんの主治医のように、「焦り」というキーワードで「復職が時期尚早であること」を説明されるのが、一般的にも多いのではないかと思われます。
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著者プロフィール
- 泉谷閑示
(精神科医)
1962年秋田県生まれ。東北大学医学部卒。東京医科歯科大学医学部付属病院医員、(財)神経研究所付属晴和病院医員、新宿サザンスクエアクリニック院長等を経て、現在、精神療法を専門とする泉谷クリニック院長。著書に『「普通がいい」という病』(講談社現代新書)と最新刊の『「私」を生きるための言葉』(研究社)がある。
「泉谷クリニック」ホームページ
この連載について
いまや8人に1人がかかっているといわれる現代病「うつ」。これだけ蔓延しているにもかかわらず、この病気に対する誤解はまだまだ多い。多数の患者と向き合ってきた精神科医が、その誤解を1つずつひも解いていく。
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