【第17回】 2009年06月11日
「ウツ」の人には余計なひとこと?―外出や運動のすすめ
――「うつ」にまつわる誤解 その(17)
「そんなに家に閉じこもってばかりいると余計に気分がふさいじゃうでしょ。少しは外に出て気晴らししてみたら?」
「寝転がってばかりいないで、ちょっとは身体を動かさないと気分も晴れないわよ。近所を散歩でもしたらどう?」
「うつ」状態で療養をしていると、こういったアドバイスを周りから受けることがよくあるようです。しかし患者さんにとっては、ちょっとした外出や運動であっても、かなりの負担に感じてしまう場合が少なくありません。
そこで今回は、「うつ」の人にとって、外出することや運動することがどのように感じられるのか考えてみましょう。
人間は「心理的なバリヤー」を張って生きている
人間は普段、外出することなど何でもない当たり前のこととして生活していますが、ひとたび「うつ」の状態に陥ってしまうと、突然、外出することが大変な勇気を必要とするものに変化してしまいます。
「家の中でそこそこ動けるんだったら、近所に出かけるくらい大丈夫だろう」と理屈の上では考えられるかもしれませんが、これが心理的にはそう簡単にはいかないのです。人間の行動というものを、目に見える肉体の動きだけで捉えてしまっては、こういった現象をうまく理解することはできません。
人間は外界との接触に際して、目に見えぬバリヤーのようなものを自然に作り出していて、外界から侵害されないように防御しながら生きていると考えられます。ちょうど、免疫機能を備えることによって外界の細菌やウイルスに対する抵抗力をある程度持っているように、人間は心理的にも抵抗力と呼べるようなものを備えているわけです。
しかし、精神的なエネルギーが低下してしまってこの心理的なバリヤーが弱体化してくると、今まで何でもなかったはずのことに次々と支障が出てくるのです。
親しい家族との接触すら負担になることも……
「うつ」の話から少々外れるように思うかもしれませんが、ここで「ひきこもり」に陥った人の状態について考えてみましょう。
人間の心理的バリヤーが最も弱体化したときに陥るのが、近年「ひきこもり」と呼ばれているような状態です。
心理的バリヤーが極端に弱まると、慣れ親しんでいるはずの家族との接触すらも大きな精神的苦痛を伴うようになってしまい、自分の部屋に「ひきこもる」ようになります。これは、心理的バリヤーが張れないので、その代わりに、壁やドアで囲まれた自分の部屋という物理的なバリヤーを必要とするためだと考えられます。
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著者プロフィール
- 泉谷閑示
(精神科医)
1962年秋田県生まれ。東北大学医学部卒。東京医科歯科大学医学部付属病院医員、(財)神経研究所付属晴和病院医員、新宿サザンスクエアクリニック院長等を経て、現在、精神療法を専門とする泉谷クリニック院長。著書に『「普通がいい」という病』(講談社現代新書)と最新刊の『「私」を生きるための言葉』(研究社)がある。
「泉谷クリニック」ホームページ
この連載について
いまや8人に1人がかかっているといわれる現代病「うつ」。これだけ蔓延しているにもかかわらず、この病気に対する誤解はまだまだ多い。多数の患者と向き合ってきた精神科医が、その誤解を1つずつひも解いていく。
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