【第29回】 2009年08月04日
民主党政権だと安全保障政策が進展するというパラドックス
衆議院が解散され、各党がそれぞれマニフェストを発表した。麻生太郎首相や鳩山由紀夫民主党代表らが批判合戦を繰り返し、新聞、TVなどマスコミも競って各党のマニフェストを比較する。来たる総選挙は、初の本格的な「マニフェスト選挙」の様相を呈してきた。今回は、民主党のマニフェストから、特に現実路線への軌道修正かと注目される安全保障政策に焦点を当てる。私の主張は、民主党政権の誕生が安全保障政策を現在よりも大きく前進させる可能性があるというものだ。
民主党の安全保障政策の転換
民主党は、2007年の参院選勝利後、インド洋での給油活動のために海上自衛隊を派遣する新テロ対策特措法や在日米軍への思いやり予算、海賊対処法など政府・与党の安全保障政策にことごとく反対してきた。特に給油活動については「憲法違反」として抵抗し、安倍内閣が政権を投げ出す一因になった。また、福田内閣時に新テロ特措法は、野党が過半数を占める参議院で否決されて、あえなく期限切れとなり、海上自衛隊は一時撤収を余儀なくされた(その後、衆院で再可決され、給油活動は再開した)。
しかし、民主党が今回発表したマニフェストでは、安全保障政策は衆院選後の政権獲得を意識し、ソマリア沖の海賊対策や、北朝鮮制裁目的の貨物検査に前向きな政策を示すなど、現実を踏まえて従来路線を軌道修正した内容となった。給油活動については、マニフェストに記述がないが、政権獲得後に即時中止という従来方針を転換し、根拠法である新テロ対策特措法の期限が切れる来年1月までは容認した。
民主党が給油問題をマニフェストに盛り込まなかったのは、党内の異論や社民党との共闘に配慮したのかもしれない。民主党は現在のところ、新テロ特措法を延長しない考えを示しているし、かつて民主党が国会に提出した対案は、アフガニスタンでの武力抗争停止の合意後に人道復興支援を行うという現実的ではないものだった。
だが、私は民主党が政権を取れば安全保障政策はもっと現実的になるし、社民党も連立政権入りすれば、現在の頑なな態度を変化させる可能性が高いと考えている。なぜなら、戦後の日本政治では、保守・自民党が国会で安定多数を確保した時ではなく、むしろ自民党が弱く中道左派政党が強い与野党伯仲状態や連立政権の時に安全保障政策が進展してきたからだ。
国会で与野党の議席数に大きな差がある時、野党は政権の座を意識することがなく、安全保障問題については反対に徹することになる。一方、自民党は野党の反対が大きい時に安全保障政策を無理に進展させようとはしない。かつての軍国主義に対するトラウマがある日本国民は安全保障に関して強引なやり方を好まない。自民党は支持率低下によって、次の選挙で議席を減らすことを恐れるので、安全保障政策で無理をしないのである。
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著者プロフィール
- 上久保誠人
(早稲田大学グローバルCOEプログラム客員助教)
1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。博士論文 タイトルはBureaucratic Behaviour and Policy Change: Reforming the Role of Japan’s Ministry of Finance。
この連載について
「大物政治家に話を聞いた」「消息通に話を聞いた」といった大手マスコミ政治部の取材手法とは異なり、一般に公開された情報のみを用いて、気鋭の研究者が国内・国際政局を分析する。
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