日本郵政の西川善文社長がフリーランスのジャーナリスト・町田徹(私本人)にかけた圧力が、一介の報道人への圧力にとどまらず、国会の権限を損ないかねない行為として政治・社会問題に発展し始めた。
その圧力の対象が、町田徹が衆議院の総務委員会で参考人として意見陳述した際に、委員長や理事の許可の下で配布を許された「説明資料」だったからである。こうした資料は国会の慣例で、「委員限り」「門外不出」となっている。
事態がどれほど異常なことか。衆議院の事務局に前例を問い合わせてみると、国会の長い歴史の中では、今回のような非公式資料だけでなく、公式に議事録に保存される「発言」も含めて、「その内容について、第3者(この場合は、日本郵政)が訂正や謝罪を求めた例は一件も記録にない」との回答が戻ってきた。この背景には、こうした行為を許せば、参考人として意見を陳述するのにリスクが生じ、辞退者が出て、国会の審査や調査という権限・機能が著しく損なわれかねないという事情があるとされてきた。
一方、圧力をかけた西川氏は、財務大臣が100%株式を保有する実質国営会社の社長だ。つまり、行政の末端組織の長である。しかも、「かんぽの宿」の出来レース疑惑では、鳩山邦男総務大臣から業務改善命令を受けたばかり。この人物が神妙に反省の姿勢を見せないばかりか、逆に、行政府が立法府をないがしろにする行為ととられかねない“圧力事件”を起こしたことに、早期の撤回を求める意見だけでなく、西川氏の証人喚問を要求する意見や日本郵政社長としての資質を問う声まで強まっているという。
松野頼久議員(民主党)は4月7日、衆議院総務委員会の質疑を淡々とスタートした。手際よく、横山邦男専務執行役が西川社長名で町田徹に対する内容証明を送付した事実を確認する滑り出しだった。これに対し、答弁を担当した日本郵政の米澤友宏執行役はいきなり、町田徹(まちだてつ)の名前を「まちだとおる」と読み間違い、準備不足ぶりを露呈した。
そして、松野議員が、
「この資料は、各党の理事が理事会で合意をして、委員長の判断によって、委員に限り配布をした資料でございます。どうやって入手したんですか」と、3つ目の質問を口にした途端、金融庁の官僚出身の米澤氏もようやく事態の深刻さに気付いたのかもしれない。まるで、それしか言葉を知らないオウムのように、
「具体的にどこからということについては今、ちょっと手元に情報がございません」
「具体的なところは私のところにございませんので、申しわけございません」
と、しどろもどろになったのだ。三井住友出身でこの間、数々の失態を演じてきたチーム西川の大番頭である横山専務の尻拭いに戸惑っていた面もあるだろう。