
年金関連法案が今国会で成立する見通しとなった。重要な制度の見直しが多数盛り込まれており、ネット上ではさまざまな意見が飛び交っているが、中でも大きな注目を集めているのが「遺族厚生年金の5年有期給付化」だ。“改悪”と批判され、SNSは炎上している。この見直し、本当に改悪なのだろうか。現状の仕組みと変更点について正しくポイントを押さえておきたい。(ファイナンシャルプランナー〈CFP〉、生活設計塾クルー取締役 深田晶恵)
大炎上した「遺族厚生年金」の改正案
本当に“改悪”なのか?
5月30日、年金関連法案が衆議院本会議を通過し、今国会で成立する見通しとなった。
今年は「5年に1度の年金制度改革」の年。そのため制度見直しの項目は多く、「基礎年金の底上げ」「パートの壁撤廃」「在職老齢年金の基準額引き上げ」など多岐にわたる。
中でも「遺族厚生年金の5年有期給付化」は、私たちの暮らしに大きな影響を及ぼす改正だ。なぜかメディアでは大きく取り上げられていないが、SNS上では「改悪」と批判の声があがっている。
実際のところ、改悪といえる見直しなのだろうか。今回は「遺族厚生年金の改正案」について解説する。
「遺族年金」には、「遺族厚生年金」と「遺族基礎年金」がある。
遺族厚生年金は、厚生年金に加入している会社員・公務員などが亡くなった際に、配偶者らに支給される年金のこと。遺族基礎年金は、18歳未満の子ども(法律の表現では18歳になる年度末まで子ども)がいる場合に支給される。
まず、現行制度の仕組みを見てみよう。
遺族厚生年金は、18歳未満の子どもがいない場合、死別時に30歳未満だと残された妻は5年間の有期給付で、30歳以上だと再婚または死亡するまで無期限で支給されている。18歳未満の子どもがいると、30歳未満でも無期給付となる。
一方、残されたのが夫の場合、死別時55歳未満だと受給権が発生しないため、遺族厚生年金を受け取ることはできない。55歳以上だとしても、60歳まで支給停止なので、受け取れるにしても60歳以降となる。
このように遺族厚生年金の受給要件には、旧態依然の男女の格差があり、今の時代に合っていないと問題視されていた。
そこで政府は、女性の就業率の向上などに合わせてこの男女差の解消に着手するのと同時に、18歳未満の子どもがいない現役世代については、男女に関わらず原則5年に有期化することとした。
炎上しているのは、これまで無期給付だった遺族厚生年金が「5年の有期給付」になる点だ。男女格差の解消などとても良い改正案もあるのだが、そこに触れている人は見かけない。
批判殺到の「5年有期化案」であるが、最大の誤解ポイントは次の点だ。