週刊ダイヤモンド このところ、「政府系ファンド」という言葉を、さまざまなメディアの報道で見かけることでしょう。

 サブプライムローン関連の巨額の損失によって資本を毀損した欧米の巨大銀行に救いの手を差し伸べたのは、中国投資有限責任公司(CIC)、シンガポール政府投資公社(GIC)、クウェート投資庁などの政府系ファンドでした。買収ファンドやヘッジファンドも世界金融不安のあおりを受け、火傷を負うなか、唯一の資金の出し手として存在感を増しています。

 日本でも、ソニーやコスモ石油、福岡ドームや汐留シティセンターなどに、中東やシンガポールの政府系ファンドが投資しています。

 政府系ファンドとは、政府が自国の資金を増やすために外貨建ての投資活動をするファンドのことです。石油や天然ガスの販売収入や、為替介入によって得られる外貨準備が原資です。英語では「ソブリン・ウェルス・ファンド(Sovereign Wealth Fund)」と言います。

 その資金は、2007年末で2.9億ドル程度と見られていますが、石油など商品価格の上昇や、ドル買いの為替介入によって、毎年1兆ドルのペースで積みあがり、2015年には15兆ドルに達するとの試算もあります。米国株式市場の代表的500銘柄である「S&P500」の時価総額がだいたい12兆ドルですから、その潜在力には凄まじいものがあります。

 「国際金融市場の救世主」という見方の一方で、「国家の別働隊」ではないかとの脅威論も頭をもたげ始めました。中国や中東の政府系ファンドをはじめとして、その実態がほとんど明らかにされていないことが、それをあおっています。米国はIMFを動かし、政府系ファンドの「行動規範」作りを開始しました。

 今回の特集では、日本、米国、中国、ドバイ、アブダビ、シンガポールを横断する総力取材によって、幹部の実像、今後の投資計画など、その秘密のベールに包まれた深奥部に迫っています。

 ワシントンの有力シンクタンク「ピーターソン国際経済研究所」の協力を得て、世界28ヵ国32ファンドのランキングを全面掲載しています。

 また、資産規模、資産配分、資金源などの詳細データを入手して作った主要ファンドのプロフィールは、保存版です。

 そのリストに加えなければならない国が、近々現れそうです。中国に次ぐ世界第2位の1兆ドルの外貨準備を積み上げている日本です。

 最終章では、日本版政府系ファンドの設立に躍起になっている自民党議員と、外貨準備を管掌する財務省との対立構造を描きながら、外貨準備のあるべき姿を提起します。

(『週刊ダイヤモンド』副編集長 遠藤典子)