【第17回】 2009年03月16日
北島康介選手の「日本卒業」が連想させる
“スポーツバカ”からの脱皮
北島選手が卒業するのは
どんな日本なのだろうか
競泳平泳ぎでアテネ(04年)、北京(08年)オリンピック2大会連続2冠の北島康介選手(26歳)は、3月1日、小中学生を対象に講演し、今後の目標について「日本卒業」と書き示した。その意味について北島選手は、「海外で新しい自分を探し、新しい環境で英語などを勉強したい」、「水泳中心の生活ではない」などと説明したという。
競技に専念することを目標にして渡米した千葉すず選手、山本貴士選手などの例はあるが、競技よりも「自分探し」に重点を置く北島選手のケースは、別の興味を抱かせる。なによりも「日本卒業」というキャッチコピー的な表記には、様々な連想を引き起こさせるものがあった。
心情の細部までは理解できないものの、少なくとも北島選手が現在の自分の在り方に満足していないのは明らかであり、その原因が自分を取り囲む日本の環境にあるらしいことも推察できる。
オリンピック2大会で連続2冠という偉業を達成し、メディアの脚光を一身に集めるスター選手になったにもかかわらず、北島選手はなぜ、自分に満足できないのだろうか。
強引な言い方をすれば、どれだけ輝かしい成績を上げようとも、どれだけスター扱いされようとも、競技外の世界では“スポーツバカ”としか受け止められない、という日本社会の現実を北島選手は実感したのではなかろうか。そして、“スポーツバカ”という見方から自分を引き離し、新たな自分へと脱皮させるためには、日本を飛び出すしかない、と北島選手は考えたのではなかろうか。
“スポーツバカ”を量産する
日本の競技界
日本では、競技団体に対して批判的な意見をいう選手はほとんどいない。稀有な例とし強く記憶に残っているのは、2000年、競泳女子の千葉すず選手がオリンピックの選手選考を巡り、日本水泳連盟を相手取ってCAS(国際スポーツ仲裁裁判所)に訴えを起こした件だ。
その訴えについて千葉さんは、こう話した。「若い選手がスポーツに対して夢を持っていけるような公平な環境を作りたいと思い、訴えてきました」
千葉さんの勇気ある行為によって、選手を支配、統制する権力組織と化した日本水泳連盟に風穴(選手選考方法の改革など)が開けられた。
しかし、競技界(競技団体をはじめ中学から大学にいたるまで)は総体的に競技選手の若年化を推進するとともに、学力や社会的なものの見方や考え方を軽視し、スポーツ技能中心の育成を目指して“スポーツバカ”を作り出すことに邁進している。
一昨年、社会的な関心を集めた高校野球の特待生問題をはじめ、大学の特別選抜制度などは、“スポーツバカ”の温存、継続を図るものといえる。
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著者プロフィール
- 谷口源太郎
(スポーツジャーナリスト)
1938年鳥取市生まれ。講談社、文芸春秋の週刊誌記者を経て、フリーランスのスポーツジャーナリスト。スポーツを社会的視点からとらえた批評をてがける。市民の立場からメディアを研究する「メディア総合研究所」会員。フェリス女学院大学非常勤講師。著書「スポーツを殺すもの」(花伝社)、「巨人帝国崩壊」(花伝社)、「日の丸とオリンピック」(文芸春秋)など。
この連載について
底の浅いスポーツ報道に高騰する放映権料、エージェントの暗躍やスポンサーと協会の利害関係、そしてスポーツを利用する政治家まで。スポーツは純粋な「競技」から、完全に「ビジネス」と化した。スポーツを殺したのは一体誰なのか。暴走するスポーツバブルの裏側を検証する。
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