企業が事業の成功を目指して策定した戦略が、成功の見込みを高めると同時に、失敗の見込みをも高めてしまう――。この矛盾を、「戦略のパラドックス」という。
世界的な経済危機の底入れ局面を迎えている現在、企業は生き残りのために、新たな経営戦略を策定しようと模索している。だが経済環境は、わずか1年前とは比べ物にならないほど「不確実性」を増している。
まさに一寸先は闇、いつ「戦略のパラドックス」に陥るかわからないという不安な状況が続くなか、不確実性への対処を目指す新たな経営戦略が必要不可欠となっているのは、第1回で詳しく説明したとおりだ。
本連載では、デロイトグループの著書『戦略のパラドックス』 『戦略のパラドックスへの解』でも詳しく紹介している「戦略のパラドックス」について理解を深めていただき、さらにその対処法を業界別に分析していく。
第2回は、主にPCに使われるHDD(ハードディスク・ドライブ)業界を例に挙げ、各プレーヤーの「不確実性」への対処について、「戦略のパラドックス」の視点から考えてみよう。
この業界で「不確実性」が本格化したのは、2000年前半のことだった。
2000年代初頭における
HDD業界の不確実性
90年代を通じてHDDは長足の進歩を遂げ、記憶媒体として不動の地位を占めるに至った。2000年代に入っても、性能とコストパフォーマンスの向上は続いている。ITバブルの崩壊といった逆風がありつつも、底堅い企業の情報武装ニーズや個人へのPC普及拡大と相まって、おおむね成長軌道に載っていたのだ。
一方で、将来を展望すると2つの大きな不確実性が存在していた。1つは、今後の有望市場において「代替製品」が登場する可能性、もう1つは、将来急激な「価格下落」が起きる可能性だ。
まず、代替製品に関する不確実性を見てみよう。普及が本格化してきたノート型PCを筆頭に、HDDの小型化ニーズが高まってきており、小型市場は高付加価値の有望市場として期待されていた。
しかしながら、小型記憶媒体の新興技術としてフラッシュメモリが台頭してきており、それがHDDの強力な代替製品になる可能性も存在していたのである。