“派遣切り”はドイツでも起きているが、日本のように、解雇された派遣社員が路上生活を強いられることは稀だ。彼らは賃金や雇用保障の面では差別されているが、社会保障の面では差別されていない。ドイツ最大の労働組合、ドイツ労働総同盟(DGB)の法務担当幹部、トルステン・ウォルター氏に、非正規雇用問題への処方箋を聞いた。(聞き手/ジャーナリスト、矢部武)

ドイツ労働総同盟(DGB)法務担当幹部のトルステン・ウォルター氏(Torsten Walter) 

―日本では非正規労働者の待遇格差が社会問題になっているが、ドイツではどうか?

 EU(欧州連合)とドイツの法律は、パート労働者を賃金、社会保障などの面で差別することを禁止している。私も週30時間勤務のパート職員だが、週40時間の正社員の給料の約4分の3を受け取り、社会保険や年金などもまったく変わらない。

 ただ、均等待遇が義務づけられていても、なかには守らない企業もあり、平均するとパート社員の賃金は正社員より20%ぐらい低くなっている。完全な均等賃金を実現することがDGBの目標である。

―最近、フォルクスワーゲンが非正規社員4500人の削減計画を発表したが。

 同社の人員削減の対象になっているのはほとんどが派遣社員だ。彼らは同じ非正規でもパート社員より賃金が低く、不況になると真っ先に切られる。パート労働者の均等待遇は義務づけられているが、派遣労働者はまだそうなっていない。ドイツでは10年前ぐらいから派遣労働の規制緩和が進み、今では労働人口の1%強を占めている。

 ちなみに非正規社員全体の割合は約14%で、ほとんどはパート社員だ。我々は、派遣労働は特定の業種に限定し、待遇差別を禁止すべきだと主張している。10%前後の失業率を下げようということで派遣の仕事が創出されたが、結果的に普通の仕事が減り、労働事情は悪くなったと思う。