6月6日土曜日の読売新聞夕刊トップに、労働組合という存在の今の難しい位置付けをよく表す興味深い記事が載っていた(見出しは「非正規社員の福利 社員並みに 私鉄総連 統一要求へ」)。私鉄総連は、大手私鉄や全国の鉄道、バス、タクシー会社の約230の労組で構成され、組合員数は昨年6月現在で約11万5000人に上る。その巨大な産業別労連が加盟労組の企業が抱える約2万1500人の契約社員やパートなど非正規社員の福利厚生の水準について、組合員たる正社員並みに引き上げることを秋の労使交渉の統一要求に盛り込む方針を固め、その要求実現のため、ストライキを設定して交渉に臨むことを検討しているというのだ。
私鉄総連自体は中央組織であるため、具体的な要求内容は、7月の中央委員会での正式決定を経て、各労組で詰めることになる。基本的には、住宅手当や社宅、更衣室や社員食堂の利用といった待遇面での格差是正が中心となるようだ。例えば、ある私鉄大手では、更衣室や休憩室の利用を正社員だけに限定しているケースがあり、非正社員が日常的に正社員との待遇の差を感じる原因になっているという。これだと、確かに、非正社員のモチベーションは上がるまい。些か驚いたことに、読売新聞の記事によると、会社によっては、運転手や車掌にまで非正規社員を当てている。モチベーションの欠如は安全面の問題に直結する恐れがある。また、そもそも、疲れている運転手や、ムシャクシャしている車掌に乗り合わせることは、客としても嬉しくないし、正社員の同僚としても然りだろう。
筆者は、私鉄総連のこの決断自体は評価に値すると思う。非正社員の福利厚生、つまり待遇を現実に改善すると、そこではコストがかかり、その分だけ正社員側の待遇、条件の改善を圧迫するはずなのだ(たとえば、賃上げについて、会社側のバジェットを考えると、本来はもう1000円可能であったかもしれないところを、非正社員の待遇改善に回してくれと要求するのと同じ理屈だ)。安全の問題を含めて、正社員にとって切実な問題も考慮要素としてはあっただろうが、これは、目先の損得よりも正義を優先させた「心のある」運動方針だ。
しかし、これが大きなムーブメントになるかどうかは、別問題だ。他の労働組合において非正社員の待遇改善を積極的に取り上げていこうという追随する動きは、今のところ、起きていない。
「連合」では、そのトップが過去、非正社員の待遇について考えてこなかったのは少し問題だったかもしれないという類の反省の弁を述べたことはあったと記憶するが、具体的な要求レベルで、非正社員の待遇改善を求めたという話を耳にしたことがない。読売新聞の記事は、この件に関して、「福利厚生の格差解消を統一要求に盛り込むのは異例」とする連合のコメントを紹介するにとどまっている。同紙がコメントの一部分だけを載せたのかもしれないが、連合は、「異例」というだけで、これに続くアクションを打ち出す姿勢を見せていない。印象を一言で言えば、「冷淡」だ。