オフィス移転のキーワードは「Seek」「Switch」「Spread」

同社グループ企業・サンノプコ総務課で、嶋津氏と同じ東京オフィス移転プロジェクトチームに参加した櫻井雅恵グループリーダーが振り返る。

フロア面積は減少しても満足度は上昇。新しい働き方への転換を促進する画期的なオフィスサンノプコ 総務部 総務課 グループリーダー 櫻井雅恵氏

「東京支社の移転の方針が固まった後の21年1月、グループ内にプロジェクトチームが発足して、そこで打ち出したキーワードが『Seek』『Switch』『Spread』という3Sでした。シークは働くのに最適な場所を探すこと、スイッチはオフィス内でのオン/オフを切り替えること、スプレッドは社内やグループ内で新しい出会いを広げることを意味しています」

結論から先に言ってしまうと、この3Sは新オフィスにおいて見事に具現化されている。まず、第1のS=Seekには大きな柱が二つある。一つは、個人のデスク・席を固定しないフリーアドレス制を大半の部門・会社に適用したこと、もう一つはフリーアドレスの下で選べるデスク・席を多様化したことだ。

フロア面積は減少しても満足度は上昇。新しい働き方への転換を促進する画期的なオフィス昼間は自然光が入り開放感満点。随所にある植栽が目を和ませる

「グループ内では新しい働き方の基礎としてABW(Activity Based Working)を導入していまして、オフィス内のフリーアドレスはもちろん、リモートワークなどオフィス外での勤務まで含め柔軟に考えています。オフィスの中でも、例えば個人の作業に集中したいときには集中ブースで、仲間とわいわい打ち合わせをしたいときは大テーブルやカフェでとか、一番いいスポットを選んで働こうという、そういう意味での『Seek』ですね」(櫻井氏)

24階という高層階から屋外を望むガラス壁に面して並ぶ半個室の集中スペースを見ると、「働くのに最適な場所を探す」ことができるというSeekの実現を目指す熱意の強さがよく分かるが、これ以外にも、こんな取り組みがある。

「100人収容のカフェを設けたほか、4人掛けの“ファミレスシート”も12カ所に配置しました。『会議は会議室で』『お客さまへの応対は応接室で』といったこれまでの前提を取り払い、カフェやファミレスシートも会議スペースや応接スペースとして使えます」(櫻井氏)

こうした対応は、移転前より減少したオフィス面積を補うことにも役立っているのだが、さらにもう一つ効用がある。第2のSであるSwitchの実現だ。

「以前のオフィスには休憩室と呼ばれるスペースがありましたが、うまく機能しているとは言いがたい状況で、社員を対象にしたアンケートでも社内のオン/オフの切り替えができる場所を求める声が出ていました。カフェやファミレスシートなどは、オンだけでなくオフのための空間としても利用できるよう設けたものです」(櫻井氏)

新オフィスの北東側を占めるカフェは、十分な面積が割かれている上に、天井をスケルトンに見せて開放感を高めたり、大型のパラソルとベンチチェアを置いて屋外のようなイメージが演出されていたりと、まるで商業建築のようなリラックス空間となった。

フロア面積は減少しても満足度は上昇。新しい働き方への転換を促進する画期的なオフィスさまざまな人数での打ち合わせに対応する、多様なテーブルとチェアを配置

3Sの3番目であるSpreadについてはすでに、仕切りを最小限に抑えたワンフロア構成による見通しの良さ、風通しの良さを紹介した。空間をつなぎ、人をつなぐ手法は徹底しており、役員用スペースとワークスペースの間の壁さえ天井までは延びておらず、相互の雰囲気や気配が感じ取れるようになっている。