情報や選択肢が増える中、顧客の変化を捉え的確なソリューションを提供
――このStudio Beの新しさと心地よさは、エントランスに立ったときから五感に伝わってきますね。目の前に広がる光景だけでなく、絶妙なボリュームで流れている音楽や、控えめではあるがはっきりと意識できるアロマの香りなどが、聴覚や嗅覚にまで働き掛けてきます。
河田 ありがとうございます。実は、今インタビューを受けているこのスペースに流れている音も、「サウンドマスキング」といって意図的に流しているものなんです。何も音を出さなければ、シーンと静かな部屋なのですが、それでは人はむしろ落ち着かず集中できない。そのためにこうした音を流していまして、このStudio Beではこういったさまざまな工夫を随所に施しています。
――富士ビジネスがクライアントに提供できるソリューションの“見本市”ですね。そうした工夫の数々が、これ見よがしにではなく、ごく自然に、調和し合って機能している点にも驚きました。御社のオフィスづくりの理念に触れた思いがします。
河田 オフィスにお客さまが求める内容は多様化・複雑化しています。それは今、私たちが変化の節目に立っているからで、オフィスづくりにおいても、既成の空間にどういった機器を入れるかという段階から、オフィスそのものをどう使うか、そこで何を目指すかが綿密に考えられるようになっている。お客さまに満足していただき、当社を信頼していただくという当社のスタンスは不変なのですが、そのためにどのようなサービスを提供するかという点は大きく変わっています。情報が増え、選択肢が増える中で、お客さまの変化をしっかり捉えて、オフィスという形で的確な答えを返せるよう努めています。
――御社のオフィスづくりのプロの皆さんからも、働き方改革やDX、そしてコロナ禍など、多くの変化の要因や、そうした変化への対応についてお話を聞きました。クライアントである日本の大手企業がオフィスに求めるものの変化について、経営トップとしてどのように把握していますか。
河田 例えば30年前を振り返ってみると、当時はまだオフィスに求められていたのは主に「効率化」でした。ある床面積の中にどれだけ人と書類を配置できるかという効率ですね。その後、人が「働く環境」を整えることが強く求められるようになり、人のためのスペースが増やされるようになってきた。背景には、ICT化によって紙やモノのためのスペースが縮小してきたこともあります。
もう一つ、会社の目的や在り方の変化によっても、オフィスは変化してきました。デスクの島型配置というのは垂直型・縦割り型の企業の組織を反映したものでした。組織の見直しが広がってくると、デスクの配置も変わってきています。
――クライアントそれぞれの在り方に適したオフィスの在り方があって、それを実現するためのソリューションを提供するのが御社のビジネスということですね。このStudio Beに盛り込まれているソリューションが多様なのは、クライアントの在り方やニーズが多様だから、と。
河田 はい。この京橋ライブオフィスはコロナ禍が始まる直前にオープンしましたが、構想を始めるときは、4、5年先の日本のオフィスがどうなるかを考えるところからスタートしました。当時からICT化の進展で人はどこでも働けて、誰とでもつながれるようになるという変化が起きていまして、それがさらに進んでいく一方、どこかで身元の確かさや会って話すことも大事だという揺り戻しも起きるだろうというのが、当時の想定だったのです。
それでこのStudio Beをつくったらすぐにコロナ禍となって、そしてそれが今、一段落しつつある。その間に日本のオフィスに起きた変化は、コロナ前の予測と大きくは違っていませんでした。
――それはすごい。将来を見据えた京橋オフィスのコンセプトは何をベースとして立てたのですか。
河田 コンセンプトを固めるに際して幾つかの書籍を当たりました。その中で、鍵になった本があって、それは担当のスタッフから提案された『ちいさいおうち』(バージニア・リー・バートン著)でした。絵本ですね。
――なるほど。Studio Beの各所に富士山形のアーチが設けられていて、「おうち」と呼ばれているのは、それが起源なんですね。
河田 ええ、オフィスの中に「おうち」の要素が必要になってくるという考え方です。中にいても安心できるし、外に出ても安心して戻ってこられる「おうち」です。
――Studio Beにも見られる多彩なソリューションの創出や、満足してもらって信頼してもらうという御社の理念の実現に向けての取り組みは、具体的にはどのようなものでしょう。
河田 一つ例を挙げるとすれば、プロフェッショナルから成る専門組織を幅広く展開して、複数の組織が一つのチームとしてお客さまの課題の解決に当たるという制度ですね。お客さまのニーズを直接伺う営業、具体的に形にしていくデザイナー、実際に空間が完成するまでのかじを取るプロジェクトマネジメントといった専門組織に加えて、働き方の変化に対応したソリューションを提案するワークスタイルデザイン部門も設けています。彼らがチームとなることで、お客さまのオフィスへのニーズの多様化、複雑化に対応できると考えています。まさにそこが当社の強みだと思います。
――1950年創業という長い歴史を持つ御社にとって、これからのオフィスづくり事業の将来展望はどのようなものでしょう。
河田 満足していただき、信頼していただけることを社是として長く続いてきた会社ですので、変わることなく満足と信頼を得られる仕事を続けていくことが最優先です。日本を支える企業のオフィスづくりは手掛ける価値・意義のある仕事ですから、社会の変化に対応しながら、この仕事を続けていくことに今後も全力を尽くします。