山原 あるメーカーでは、10年後の自社の未来構想を描くために社内プロジェクトを立ち上げようとしていました。今後10年の社会のメガトレンドを分析し、その変化の中に新たな事業機会を見いだし、新たな事業ポートフォリオを描く。そして、そこからバックキャストで、これからのR&D(研究開発)戦略、事業戦略を立てるというプロジェクトです。
私たちはこれを、一部の役員・部署や外部のわれわれだけで、リサーチ、分析、戦略立案をするのではなく、「社員が10年後に事業を通じてどんな価値を世の中や顧客に提供したいのか」を前提に、社員を巻き込んだ共創型のプロジェクトにすることにしました。未来を共に考える社内の運動をつくり出すことで、企業文化の変革につなげようとしたのです。
実際のプロジェクトには、R&Dや営業、事業部門など社内の各部署から100人以上が参加し、部署も役職も異なる7〜8人が一つのチームを組み、「自社はこれからどんな価値を生み出すべきか」「そのために自社はどう変わるべきか」というテーマで、非常に熱量の高い議論が交わされました。
参加したR&D部門の社員の方からは、「他部署の人たちと未来について議論する中で多様な視点で会社を見ることができ、あらためて自分が未来へ向けて取り組みたいテーマが見つかった」というコメントが寄せられ、社長からも「プロジェクトを通じて社員に活力が生まれ、皆の視野が広がった」と大変ご評価いただきました。
池田 このプロジェクトで求められていたのは、将来のあるべき事業構造というアウトプットでしたが、プロジェクトを通じて高まった活力や熱量というある種の「副産物」を経営トップから最も高く評価していただきました。組織内に人の活力と熱量が伝播し、それが動力となって変革が推進されることを、経営トップがよくご存じだったからだと思います。
実はわれわれも、社員の心を動かすことを主眼にプロジェクト設計を行っていました。ポイントの一つは、変革だけを目的にするのではなく、変革の先にある創造とセットで10年後に創り出したい価値は何か、そのためにどんな事業が必要かを一人一人に考えていただいたことです。
電通独自のホリスティックなトランスフォーメーションアプローチ
――電通がクライアントの経営課題、事業課題に向き合い、その解決を支援するようになったのには、どのような経緯があるのでしょうか。
山原 当初は、企業のパーパス策定、ブランディングやマーケティング変革、従業員エンゲージメントを高めるための社内向けのアクションなど、比較的マーケティングやコミュニケーションに近い領域での課題解決が中心でした。
そこから、「伝える」「動かす」といった部分だけでなく、大本の事業そのものを創り出すこと、人事制度そのものを創り出すことなど、より本質的な中身の設計を依頼されるようになりました。(下の)図のPhase 2の段階です。
そして最終的に、中期的な事業戦略やアクションプランなど、変革のアーキテクチャー(変革の指針となるトランスフォーメーション戦略、ロードマップ、アクションプラン)全体を策定するようになってきたのです。内側から外側へとケイパビリティー(組織能力)やリソース(経営資源)を拡張してきた経緯があります。
私たちはこの全体像を「ホリスティック・トランスフォーメーションモデル」と呼んでいます。
池田 (上の)ホリスティック・トランスフォーメーションモデルの図ではもう一つ、円を巡る矢印が重要な意味を持っています。特定の領域だけでなく、ホリスティック(全体的、包含的)に変革を動かしていく。そのダイナミズムが重要なんです。パーパス、そして企業の志や理念などの“自社らしさ”を起点に、クライアント企業の皆さまと共に、事業、従業員、組織を動かし、企業変革を大きく実現していくのが電通のアプローチです。