池田 そして、ホリスティック・トランスフォーメーションモデルでは、変革アーキテクチャーの策定が重要です。変革アーキテクチャーに基づいて、パーパスと事業サイド(マーケティングや事業創造など)の変革、コーポレートサイド(組織人事や企業システムなど)の変革をシームレスにつないでいくのです。
大きな変革プロジェクトには、さまざまな部署の従業員が参画することになります。どんな企業でも、部署が違うと文化や言語が異なったり、「これは自分たちの職務範囲ではない」という縦割り意識があったりします。こうした場合に、コミュニケーションを媒介し、パーパスや変革アーキテクチャーに基づいて、プロジェクトを円滑に推進していくことも私たちの重要な役割と考えています。
また、複数のプロジェクトが並行して走るケースも多いので、そうした際には電通グループとして支援のフォーメーションを組みます。電通国際情報サービス(ISID)や電通デジタル、電通コンサルティング、イグニション・ポイントといったグループ会社を含めると、約800人のトランスフォーメーション専門人材がいます。こうしたスペシャリストたちを柔軟にチーム編成し、時にはグループ外の専門人材とも連携しながら、領域統合型の変革の実現まで伴走します。
池田俊介氏
――総合コンサルティングファームを中心に企業の変革支援を手掛ける企業は少なくありません。電通の強み、ユニークネスは何ですか。
山原 先ほどホリスティック・トランスフォーメーションモデルでご説明した通り、電通はパーパスなどの内側から外側の変革アーキテクチャーへと支援領域を広げてきました。一般的なコンサルティングファームは、逆に「外側から内側」に広がってきたモデルです。まず戦略を立て、それに基づいて事業をつくり、マーケティングをする。このアプローチの場合、戦略から実行に落ちる時にキャズム(越えるべき溝)が生じやすいため、実行段階で戦略が絵に描いた餅にならないようにする必要があります。
われわれは内から外へ拡張してきましたので、最初から、生活者が動く事業開発、そして企業内が「動く」変革のアクションを想定しながら、戦略やアーキテクチャーを描きます。ここが大きな強みだと思っています。
池田 われわれは正解のない問いに対して変革を続けるための動力、ムーブメントを生み出すことを主眼とします。
地政学や経済状況、競合企業の動向、テクノロジーの進化など外部環境の変化を起点に変革の指針や中期経営計画を策定し、財務的KPI(重要業績評価指標)に基づいてリソース配分を決めていくのが、コンサルティングファームの変革アプローチだとすると、変革に一つの正解はなく、変革し続けることで価値が創出され、企業成長につながるというのがわれわれの基本スタンスです。変革の動力は、人の心が動かされ、行動が変わることによって大きくなっていきます。
人の心を動かし、その行動を変え、クライアント企業に貢献する。これは、電通が従来から一貫して行ってきたことです。その点に関しては蓄積された経験と知識、実績があります。
変革プロジェクトを実施する上で、われわれが重視しているのが変革のプロセスにおいて新たな気付きを得られたり、予想していなかったつながりが生じたり、その結果として思いもよらなかった成果が生まれたりするといった発見、ポジティブなサプライズを経験できるようにすることです。それによって人の心が動き、変化を成長の機会として楽しめるようになるからです。
トランスフォーメーション領域こそ、クリエイティビティーをドライバーに
山原 電通は長年、マーケティング領域を中心に、クリエイティビティーのケイパビリティーを拡張してきました。そのクリエイティビティーをトランスフォーメーション領域でも発揮することが、電通のユニークネスです。
山原新悟氏
新規事業の開発や、マーケティングの変革、社内活性化のためのコミュニケーションにクリエイティビティーが必要なことは言うまでもありません。ただ、そこにとどまらず、変革の戦略そのものをいかに創造的なものにするか。企業基盤の制度、仕組み、ルール設計にいかに新しいアイデアを入れるか。われわれはこれをストラテジック・クリエイティビティーと呼んでいます。
例えば、変革アーキテクチャーを策定するときも、われわれは社員の方々が同じ絵をすぐに頭に浮かべることができるように、1枚のピクチャー(絵)や言葉としてシンプルにまとめるように留意しています。戦略は複雑になりがちで、それを説明するのに多くの資料が必要だったりします。そうなると経営陣も社員も、戦略をすぐに思い浮かべることができません。戦略は「正しさ」よりも「熱量高く人が動ける」ものにすることが大事だと思います。
経営トップの方々がしばしばおっしゃるのが、「社員をわくわくさせたい。それによって、世の中やお客さまがわくわくするような商品・サービスを生み出したい」という思いです。私たちは、生活者、そして社員の方々など「人」を深く理解した上で、経営者のそうした思いを実現していきたいと考えています。
池田 変革のモメンタム(勢い)が強い会社には、変わっていくことに楽しさを見いだす文化があり、変わり続けていくことが自分たちの強みだと自覚されているという共通点があると感じます。これだけ変化が速く不確実な時代に変革を止めてしまうのは、回遊魚が泳ぎを止めるのと同じで、生き延びることができないと認識されています。
変革のモメンタムをつくり出す道のりは、地道で根気のいる過程も多くなります。そここそが、私たちが伴走する取り組みの中でも重要な過程です。変革を通じた成長を実感し、その実感が、さらに次の変革をつくっていく。こうしたサイクルを、クライアント企業の皆さまと一つのチームとして、一歩一歩共に歩み続けます。
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