企業の内側から変革の力を大きく

最初に紹介するのは、住宅関連会社における全社DX戦略策定のケースだ。電通では、パーパス(存在意義)や志といったクライアント企業の“自社らしさ”を起点に、変革アーキテクチャー(変革の指針となるトランスフォーメーション戦略、ロードマップ、アクションプラン)をデザインしていく。なぜなら、「変革は内側から動かさないと大きなムーブメントになりません。“自社らしさ”があるからこそ人の心が動かされ、組織の行動が変わっていくからです」(古平氏)。

この住宅関連会社のケースでは、まず電通グループ独自のソリューション「Dentsu Digital Transformation診断」(以下、DX診断)を活用しながら、各部署の課題を相対的に可視化して把握した。このDX診断を通じて、社内約20部署へのヒアリングを実施し、社員が感じる組織の特徴や文化、DX推進における他組織との連携状況や組織間で生じている課題なども把握し、この会社の“自社らしさ”を定量的、定性的に捉えた上で、DX戦略策定とアクションプランを盛り込んだ数カ年のロードマップ作成を行った。

さらに、そこで終わらせず、実行まで伴走するのが電通のやり方だ。この会社のケースでは、DX戦略の策定自体をゴールとするのではなく、組織のTo-Be(ありたき姿)を示し、社員一人一人にDX推進を「自分ゴト」化してもらうことが、変革には欠かせないと捉えた。研修や勉強会を通じて全社DX戦略の理解と浸透を図るとともに、デジタル人材育成プログラムの設計と実施も支援した。「経営戦略と事業実行の連携感を高め、企業の内側から変革の力を大きくしていく支援をさせていただくのも私たちの役割です」と古平氏は語る。

電通の支援実績に見る変革ビジョンの描き方、そして実行への落とし込み電通 トランスフォーメーション・プロデュース局 DXビジネス戦略1部長
古平陽子氏

次は、クライアント企業から電通への相談としても多い、「新規事業開発」のケースである。新規事業開発では、生活者やマーケットに関する深い洞察、新たな顧客価値を創るクリエイティビティー、市場を開拓するためのマーケティングケイパビリティーなどが欠かせないが、電通はそれらをワンストップで提供している。

加えて、電通グループは、先行して独自のサービス開発を行い、その開発プロセス・生活者への提供を通じて得た知見もクライアント企業に提供している。ある食品メーカーにおけるD2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)サービスの新規開発もそれに該当する。

この新サービスは、パーソナライズされた商品を定期的に届けることに特徴があり、このクライアント企業にとって、生活者に今までにない価値を届ける新しい取り組みであったため、ゼロから検討すべきことが山積みであった。そのような中、電通は、自社の新規事業でこれに近いパーソナライズサービスを展開してきた経験があり、そこで培った知見やノウハウを提供し、クライアント企業のビジネス立ち上げまでのスピードを格段に速めることを支援した。

知見やノウハウの提供にとどまらず、新規事業開発のプロジェクトマネジメントも電通で支援した。プロジェクトには社内の幅広い部署が関わっただけでなく、社外の専門集団10社以上が参画していた。ここで電通がこだわったのもスピードであり、目線合わせだ。

プロジェクトメンバーそれぞれの役割を明確に定義し、詳細なタスクを決め、スケジュールにひも付けた。メンバーからはその細かさに驚きの声が上がるほどだった。「明確に、細かく定義するからこそ、一人一人のメンバーが自主的に動けて、プロジェクトがスピーディーに進むのです」と古平氏は説明する。

前例のない事業では、生産体制の整備から販売チャネルの構築まで、初めてのことを一つ一つ積み上げていく必要がある。社内外の同意や承認を得なくてはならないことも多く、顧客に新たな価値を提供するというゴールに向かって、みんなの目線が合っていないと既存のルールや仕組みにとらわれて前に進めなくなる。

プロジェクトの途中では、主要メンバーが企業の枠を超えて混成チームを組み、チームで生活者インタビューを行うことも実施した。一見、よくある生活者インタビューではあるが、プロジェクトのメンバーが一緒に顧客の声を聞き、自分たちが実現したいサービス構想の“カタチ”を明確にしながら、「顧客目線でサービスを実現するのだ」という思いを共に持ち、プロジェクトを自分ゴト化できたという点で、プロジェクト推進のスピードと質に、大きな効果を発揮した。

多様なメンバーが関わったこのプロジェクトに電通は伴走を続け、当初の予定通り新サービスをローンチさせることができた。

現場でのシステム導入が、電通グループの支援によって全社的な変革へと発展していくケースもある。次はそうしたケースを見ていく。