バイオ医薬品に強みを持つ協和キリンは、グローバル展開に伴い、グループ各国法人の適正な損益を管理する税務ガバナンスの仕組み構築が急務となり、組織体制の変革に合わせた新システムの開発プロジェクトにおいて、EY税理士法人をパートナーに選定した。これまで難しいとされていた、税務領域において実現したDX(デジタルトランスフォーメーション)とは。両社のキーパーソンである協和キリンの石坂紀子氏、EY税理士法人の山口君弥氏に聞いた。

デジタル化先進企業でさえも税務領域のDXは手付かず

――そもそも一般的に、税務の領域においてDXが進まないのはなぜでしょうか。

山口 理由は主に三つあります。一つ目は、手作業が多いこと。税務は、会計情報やその他のさまざまな情報を集約させる必要があり、データソースが多く、複数システムへのアクセスも必要です。それが手作業の多さにつながっています。

 二つ目は、判断業務が多いこと。ルールベースで処理できるものは自動化に向いていますが、税務は、形式ではなく実態に着目する領域なので、その都度判断が必要になります。また、国によっても法令や実務が異なるため、自動化のハードルが高くなっています。

 三つ目は、専門性が高いこと。税務部門は社内で専門性が高いと認識され、DXプロジェクトの対象から外される、または優先順位を下げられてしまうというケースをよく聞きます。社外的にも税務の専門性を有しないコンサルやSIerにとっては参入障壁が高く、なかなか手が出しづらかったこともあります。

 こうした理由から、DXが進んでいる企業でも、税務は手付かずというケースが散見されます。

 高度な専門性を要する国際税務業務で、協和キリンはいかにDXを実現したのか。次ページではその構想から実装までの流れを追う。