ビジネス理解と専門知識を背景にした的確なアドバイスを提供

――税務DXの成功事例として、協和キリンが2022年から取り組んでいる新システムの開発プロジェクトが挙げられます。プロジェクト発足に至る背景についてお聞かせください。

石坂 当社は、自社開発したグローバル品の上市後、クロスボーダーにビジネス展開を加速させるため19年に「One Kyowa Kirin」の組織体制を新設しました。これは、製薬会社として必要な機能をグローバルにマネジメントする体制です。

 しかし、「ビジネス機能」軸のグローバルマネジメントと、各国法人別の利益を管理する「地域(国)」軸の税務ガバナンスでは、その管理単位の違いからスピード感にギャップが生じていました。

 グローバルで管理される取引費用を、各社に適切に按分し請求する作業はかなりの工数がかかり、さらにグローバルマネジメント体制においては、関係会社間の内部請求は、予算管理外のため見過ごされやすく、各国法人別の適正な利益コントロールをする税務プランニングを困難なものにしていました。

 そこで各国にまたがる関係会社間の費用配賦業務、請求書発行業務を自動化する新システムを構築し、業務スピードのギャップを埋める必要がありました。

――プロジェクトパートナーにEY税理士法人(以下EY)を選定された決め手は何だったのでしょうか。

石坂 EYさまは長年にわたるビジネスパートナーであり、国際的な税規制「BEPS(税源浸食および利益移転)」が始まる以前から支援を受けてきました。

 EYさまの強みは、当社のビジネスに対する深い理解と、税制観点からのビジネス機能・リスク分析に基づく豊富な専門知識、これまでに達成したプロジェクトにおけるコラボレーションの積み重ねにあります。
 
 実際のプロセスでは、私の頭の中だけにある構想を新システムに落とし込むに当たり、EYさまとは何度も壁打ちし、当社のビジネスの実態を踏まえた合理的な判断と、税制観点を融合させたアドバイスを受けながら進めることができました。

協和キリン 財務経理部 国際税務グループ グループ長
石坂 紀子氏

――本プロジェクトの体制で特徴的なものはありますでしょうか

山口 チーム体制は業務チーム、開発チーム、PMOチームで構成されました。EYの業務チームは、税務の専門アドバイスができる点に強みがあります。税制上どうあるべきかという整理と、業務運用上の整理が併せて可能な点も大きな特徴です。

 開発チームには、本プロジェクトで選定されたシステムの導入経験者をアサインし、業務整理の段階から関与して、当該システムにおける実現可能性を早期から考慮に入れ、プロジェクト全体の手戻りを減らしました。

石坂 毎回の会議にEYさまの税務の専門家と開発担当者がご参加くださり、情報の共有と連携を強化しながら進められたのが心強かったですね。

――DXの成功には「お客さまと共につくり上げていく」ことが重要だと指摘されています。

山口 お客さまとプロジェクトのゴールを共有し、それぞれのメンバーが役割分担に応じた専門性を発揮することが重要だからです。一般的にプロジェクトがうまくいかないケースとして、コンサルタントがお客さまの“ご用聞き”になっているケースと、逆にコンサルタントだけが頑張っているケースがあります。

 しかし、DXの成功にはお客さまとコンサルタントが共通のパッションを持ち、一つになって課題解決に取り組んでいく必要があり、われわれはそれを「One Team」と表現しています。

 One Teamの中で役割分担し、例えばお客さまは、ビジネス・業務、社内コミュニケーション、判断・決定を、EYは税務ナレッジ、プロジェクトマネジメント、テクノロジー導入などを、それぞれ担います。

EY税理士法人 パートナー 税理士
山口 君弥氏

新システムで手作業は大幅に削減、税務データが経営判断にも寄与

――新システムはどのように課題であった業務スピードのギャップを解決しましたか。