時代は「所有から共有へ」
「これまでの日本企業は、自社で業務プロセスを作り、それを動かすためのシステム(仕組み)を構築し、人を採用して育成、これらを回していくという形が一般的でした。しかし、労働力人口の減少が急激に進む中では、これらを自前で行っていくことが困難になります」
つまり、企業を取り巻く経営環境が大きく変化している中、「人手不足の時代」においては、社内のあらゆる業務で省人化が重要になってくる。最近、業務集約・BPOサービスが注目される理由もここにある。
アソシエートパートナー
横井 太一氏
では、「今後の世界」において、どのような取り組みが求められているのだろうか。
「当社では『所有から共有へ』と呼んでいますが、自社で一から仕組みを構築するのではなく、必要な機能を、クラウドを通じてオンデマンドで調達する時代になるでしょう」
横井氏によれば、EYビジネスパートナーでは、経理、会計、給与計算、社会保険、税務などの幅広いアウトソーシングサービスを、製造業から金融、小売り、医療福祉、サービス、政府機関、地方自治体まで、さまざまな業界に提供しているという。「人材も含めた経営リソースを大幅に削減できるとともに、ベストプラクティスを活用できるのも大きなメリットです」と語る。
スタートアップには大きなメリット
横井氏は、自社が関与した事例はもとより、仕事柄、他にも多くの企業の業務集約・BPOサービスの導入事例についても詳しい。成功している企業とそうでない企業とを分けるポイントは何か。改めて聞くと、以下のように答える。
「失敗事例の方から申し上げれば、『既存のシステムをデジタルに置き換えクラウド化する』というだけではなかなか成果につながりません。真の業務集約・BPOを実現するためには、その業務が『自社にとって本当に必要なのか』というところから見直す必要があります」
例えば、ある企業では、役員会に報告するために、売り上げなどのデータの取りまとめを日次、週次などで、ほぼリアルタイムに行っていたが、実際に役員会でこれらのデータを基に議論されることはほとんどなかったという。
また別の企業では、複数のスタッフ間で集計データなどをやりとりしていたが、他のスタッフが「何のためにそのデータを利用しているのか」を理解せずに行っていたため、結果的に無駄な業務が多く発生していたというケースが見られたという。
もっとも、大手企業では改革自体に積極的でないケースも多いという。「特定のプロセスに高度なスキルを持つ人材を配置しておきたい」という考えから、むしろ、業務プロセスや組織形態も現状を維持しようとするのだ。
「ただし、それも人材が確保できることが前提です。退職者の補充ができないような時代にはそれも困難になります」と横井氏は強調する。
繰り返しとなるが、業務集約・BPOサービスの導入は、単に事業部門での効率化やコスト削減を目的とするのではなく、「将来の人手不足を見据えた経営課題」を解決するための必要不可欠な取り組みであると認識すべきだろう。
「その点では、業務集約・BPOサービスの導入は経営者の方の重要なテーマであると考えていただきたいですね。大企業に比べ、人材リソースが限られているスタートアップやプライベート企業ではそのあたりの意思決定も速く、率先して業務集約・BPOサービスを取り入れています」
実際に、EYビジネスパートナーの支援により短期間で業務プロセスを構築しただけでなく、質の高い情報開示や内部統制の体制を整えたスタートアップも少なくないという。また、こうした業務集約・BPOサービスにより、限られた人材を、本来、集中すべき業務に投入できるメリットも大きいだろう。