ネットフリックスの文化において、「自由と責任」は最も重んじられている価値観だ。たとえば、「必要なだけ休暇を取ってよい」という方針にもそれが落とし込まれている。他社がこの制度を見習うためには、まず自社に強固な信頼が根づいているか自問しなければならない。

 

 ネットフリックスの創業者リード・ヘイスティングスが、2009年にスライドシェア(プレゼンテーション資料を共有できるプラットフォーム)上で公開した社内資料は、驚くほど大きな反響を呼んだ。Reference Guide on our Freedom and Responsibility Culture(当社における自由と責任の文化に関するガイド)と題されたこのスライドは、今日までに1200万回以上閲覧され、世界中の新聞にも取り上げられてきた。フェイスブックのCOO(最高執行責任者)シェリル・サンドバーグは、シリコンバレーでつくられた文書のなかで最も重要なものであると評している。

 124枚のスライドのうち、人々の記憶に最も残っているのは無制限休暇に関するものだろう。より厳密には「休暇に関する規則の廃止」という方針である(スライド65~)。

 ネットフリックスの経営陣は、従業員の休暇日数の追跡・記録をやめることにした。その理由はスライドでこう説明されている。「我々は、従業員の皆さんが何日働いたかではなく、何を達成したかを重視すべきであると気づきました。当社では9時から17時という勤務時間を規定していないように、休暇についても規則は不要です」。従業員は休暇を、長短にかかわらず必要だと感じる日数だけ取ることができる(訳注:ただしある程度の調整は必要となる。たとえば会計・財務部門は繁忙期の休暇を避ける、30日以上の休暇は人事と相談する、等)。

 以降、この方針に対して賛否さまざまな反応が生まれている。リチャード・ブランソン率いるヴァージンのように、同様の方針を採用した企業もある。また、見事な失敗が明らかになった例もある(新聞社のトリビューンは自由裁量休暇の導入を決めたが、従業員の懸念と混乱を受け8日後に撤回)。懐疑派は、休暇制限をなくせば、従業員が「もっと働かなければ」というプレッシャーを感じて、休暇中も仕事をするようになるため、かえって休む日が減ってしまうと主張する。

 こうした懸念が現実化するかどうかは、主に企業文化の問題であり、ある重要な要素が醸成されているか否かに左右される。それは「信頼」である。