新型コロナ禍で開いた私大入試“パンドラの箱”
新たに始まる大学入試共通テストを敬遠して、2020年度入試で現役志向が強まったこともあり、浪人生も減少した。大学入学共通テストが実施され、そこに新型コロナ禍が襲ったことで、2021年度入試の私立大学志願者数が数%程度減少することは織り込み済みだった。しかし、それが2ケタ減になろうとは、関係者は誰も予想しなかった事態である。いったい何が起きたのだろうか。
安田 3月20日を過ぎて、上智大学のある学部からある受験生に追加合格の電話がかかってきました。20人くらいにはかけたようなのですが、もう他の大学に入学手続きを取ったからとお断りしたそうです。そうすると、別の受験生に合格枠が流れますよね。
後藤 追加合格の出し方にも、補欠合格者を発表しておいて順に取っていく慶應義塾や早稲田のやり方、2回目の合格発表を行うやり方、いきなり電話がかかってくるという第三のやり方があります。
安田 上智がこの時期ということは、3月下旬は玉突きで各大学の合格者が抜けていき、それを補うための追加合格が出されたことを意味します。分かっているところで慶應が1000人、明治や法政などが2000人程度の追加合格を出しています。そうなると、抜かれた大学でも追加合格を出すことになりますから、なかなか入学者が確定しません。
後藤 今年度は新型コロナの影響で、文部科学省も大都市にある私大の定員厳格化はあまり厳しくいわないという噂も出ていました。次回詳しく触れますが、横浜国立大の2次募集の影響は計り知れないです。こうして3月31日までの合格発表の期限に向けて追加合格を次々に出していくと、結果として入学者の学力の幅が広くなりますし、追加合格が追いつかずに定員割れを起こす大学も出てくるでしょう。
安田 以前ですと、4月1日の入学式に合わせて学籍番号を50音順に決めておくので、3月最終週に追加合格で入ると、ら行やわ行の名前の人の後に、あ行以降の名前の自分の番号が続いて追加合格者だとばれてしまう。そうした学生からの苦情もあって、入学式の日程自体を遅らせた大学もあったほどです(笑)。
後藤 大学側も今年度は、年内の学校推薦型で従来の志願者層が大きく抜けて、合格者が入学手続きをする率の歩留まりが読めないという未曾有の経験をしているはずです。追加で学籍番号を発行するために、入学手続き者には抜け番を覚悟してランダムに学籍番号を振っている大学もあるそうです。
安田 そもそも少子化で高校卒業者数は前年比2.6%減。それに加えて、2021年から新たに始まった大学入学共通テストを回避するため浪人生が2割も減っています。浪人生は併願校数が多いので、今年の私立大学受験者数はある程度、とはいっても数%程度ですが、減少するのは間違いないとみんな覚悟していました。
入試が終わり、いざふたを開けてみたら、私大全体で前年比12%減と戦後最大の減少率です。これはもう、予想をはるかに超えた想定外の事態です。
後藤 コロナ禍もあり、今年度も現役志向が強いですね。混乱した共通テストや一般選抜に嫌気がさしたため、年内に総合型選抜(旧AO入試)や学校推薦型選抜(旧指定校推薦入試)で合格を目指す受験生も多く、その様子から、大学側も年内に確実に入学者を確保することを目指して多めに合格を出していたという事情もありました。それにしてもここまで一般選抜が減るとは。昨年度とも違う志願者層になりますから、合格者の入学手続き率を読めないですね。その結果が追加合格の乱発を招いたのでしょう。
昨年の段階で安田さんがおっしゃっていたように、私大は総合型と学校推薦型を合わせて50%を超えました。その影響は大きいですね。従来のように高校が指定校推薦を隠すようなこともできなくなりました。高校生も、高校側の思惑を越えて、大学入学のルートに優劣はないことを知りましたからね。この流れを高校は止められなかったということですよ。
安田 オープンキャンパス等も開かれず、現役受験生には学校選びの情報が極端に不足していましたし、高校の進路指導もそれに対応し切れなかったことは、以前の対談でお話しした通りです。