事件から汲み取る教訓は何か
受験生にとって夏休みは大切な期間だ。中学受験は親の受験という側面もある。思うように子どもの成績が伸びなかったり、スケジュール通りに行動しなかったりすると、時には声を荒げ、手が出てしまうこともあるかもしれない。今回の事件から、何を教訓として読み取ったらいいのだろうか。
開口一番、「身につまされるケースです」と言う森上展安・森上教育研究所代表は、「私も全く同じケースを経験したことがあります。東京のトップ進学校に入学したものの、不登校となった男の子でした」としたうえで、以下の点を挙げた。
自分自身の親子関係を繰り返し、同じ対処の仕方をする傾向はよく耳にする。今回で言えば、刃物で脅して受験勉強をさせた点などだろう。
地域のトップ中学校に合格したという自分自身の成功体験が、親としての切迫感を生んでしまったかもしれない。
特に父親は入れ込み過ぎる危険性がある。自身に中学受験で成功体験があると、自分のやり方にこだわりがちになる。父と息子の軋轢はままある。この点は、塾の先生と子どもの間の緩衝剤としての役割ができる母親との大きな違いである。
医師や薬剤師、あるいは実家が商売をしているといった家庭では、他の道はないという思いに駆られやすい点にも注意が必要だ。
中学受験の主役はあくまでも、受験をする子どもである。
親は自分の役割をしっかり考えておかないと、せっかくの努力が親子関係の破綻につながりかねないリスクを中学受験がはらんでいることを念頭に置いたほうがいい。名古屋の事件はけっして他人事ではない。
最後に、裁判でも取りざたされたアスペルガー症候群に関して、森上氏に注意点を指摘してもらった。
「アスペルガー症候群の特徴の1つに『過剰同調』があります。アスペルガー症候群は男子に出やすい。息子さんが健気な場合には、相当無理を強いていることを、親が自覚してもし過ぎることはありません。
今回のケースでは息子さんが刺されてしまうリスクに陥りましたが、自殺を招くこともあります。往々にして父親はそのことに無自覚か、自身もアスペルガーで気が付かないうちに息子を追い込んでしまいがちです。今回のように刃物を手にした時点で、第三者が介入すべきでした。
言葉と態度による日常的な圧迫も十分な虐待になることにも注意が必要です。『大人から子どもを守るのだ』という観点も、改めて持つ必要があるでしょう」