豊かな自然と歴史の薫りに包まれた都内屈指の文教エリア、小石川。この地を代表する文化遺産・傳通院(でんづういん)の境内に小石川淑徳学園中学校高等学校はある。創立132年の伝統を礎に、校名を「淑徳SC中等部・高等部」から変更。夘木幸男校長は、創立時の時代背景に現代との共通性を見る。「江戸から明治にかけての混迷期、校祖・輪島聞声(もんじょう)先生は『進みゆく世に後れるな、有為な人間(ひと)となれ』と説きました。先の見えないVUCAの時代と呼ばれる現代にこそ本校の建学の精神が求められていると思います」。
では、社会に有為な人間が持つ力とは何か。それは「身に付けた知識」を「生き抜く知恵」へと転換するダイナミズムだという。知識はインプット重視の従来の学力、知恵はそれを社会のために活用する力だ。
「知恵を発揮するためには“人としての心”が非常に大切です。心が動かない限り、社会のどのような問題も見えてきません」と夘木校長。だから同校では社会課題を自分ごととして捉え、主体的に向き合おうとする“人としての在り方”を、中高というまだ心が柔らかい時期に、生徒たちが本来持っている力を最大限に引き出しながら、大切に育むことに主眼を置いている。その一つが仏教情操教育で、自己の内面を深く見つめる機会を多く持つ。「どれだけAIが発達し時代が変わっても、そこに生きているのは人間であることに変わりはない。私たちがどう生きていくべきか、その答えは自分自身の中にある」と夘木校長。
社会とつながりながら
「3領域プラス」の志を育む
社会に積極的に関わろうとする姿勢は日々の教育活動でも育まれる。柱は「探究力」「英会話力」「デジタルリテラシー」の3領域だ。探究力で身に付ける力は、チェンジメーカーとしての素養に直結する課題の発見・解決力。フィールドワークを中心に生徒の興味や関心を引き出し、主体的な取り組みに結び付ける。英会話力では“思いを伝える力”を重視。グローバル社会で臆することなく自分の意見を伝えられるよう、体験的な学習と基礎学力の両面から磨き上げる。デジタルリテラシーは、時代に必携の能力だ。中央大学理工学部との連携教育により、最先端の機材や技術に触れながら、知識の習得だけでなく創造的に運用する力を育む。
これら3領域の学びに通底するのは、主体的・創造的な態度の育成。そこには「3領域のスキルではなく『3領域プラス』とでもいうべき人としての在り方や姿勢のようなもの」という夘木校長の強い思いがある。また、ビジネスを通じて社会課題の解決に取り組む卒業生や起業家を招いての講演や、ベンチャーカルチャーが活発な国への海外研修など、実際の社会とつながりながら学べるのも同校の大きな特徴だ。歴史に新たな一ページを刻んだ小石川淑徳学園。その真髄は子どもたちの未来の姿に表れる。