人を動かす四つの法則
――1991年に校名を現在のものに変更しました。これが当時の改革の一つの結果かと思います。そこに至るまで、どのようなことがありましたか。
漆 「人が動かない四つの理由」に気付かされました。
生徒の声を聞いていたら、「この学校の生徒だと分かるのが嫌だから」と、学校で制服から私服に着替えて帰宅する子がいました。一方で半世紀以上前の卒業生からは、「セーラー服がかわいいからこの学校を受けたから変えないでほしい」と言われましたが、在校生が制服に誇りを持てない状況になっていたのです。
そこで、制服を変える委員会を若手中心に立ちあげ、生徒が毎日着ていて楽しくなるような組み合わせの利く制服にモデルチェンジしました。改革の必要性が伝わらないのは、この制服の例でも分かるように、「情報を知らない」ことにあります。これが理由の一つ目で、情報を共有することが大切です。
二つ目の理由は、「面倒くさい」です。改革は昨日と違うことをすることなので、面倒くさいものです。そこで、結果タイプとプロセスタイプの例のように、同じ絵(ゴール)を見てもらえるように、as if(アズイフ)の質問をするようにしました。「もし、できたとしたら生徒、喜ぶよね?」と、改革が達成できた時の状況や気持ちを思い浮かべて、一歩踏み出すようにと。
――情報と結果の共有ですね。他にはいかがですか。
漆 三つ目が、「責任を取りたくない」です。学校では、失敗でポジションや収入が変化するようなことはまずありませんが、賛同すると失敗したときに自分のせいになり、責任が生じるから怖くなる。よくよく聞いてみると、怖いのは同僚の目だったりします。「私が責任を取るから」と言うと、協力してくれる人もいました。実際、そのときの自分に責任など取れるはずもなかったのですが、その人にとってのリスクをどのように回避するかを一緒に考えることで、共にゴールに進めるようになると思います。
こうしたことを乗り越えても、すべてのことに反対する人がいます。四つ目の理由は「発案者のことが嫌い」です。論語に「人を以て言を廃せず」という言葉がありますが、認めていない人の意見は耳に入りにくいものです。私の失敗は、改革にあたって、自分の焦りから過去を否定するような発言をしてしまったことです。方法を否定されることが、自分自身を否定されるように聞こえることもあるのだと後から気づきました。
――どのようなことだったのですか。
漆 先ほどしつけのことに触れましたが、改革前は校則の厳しい学校でした。教員が生徒の将来のことを思ってやっていたことを私が否定してしまったことで、改革はだいぶ遠回りをすることになりました。
目標達成のために敵をつくることを恐れないというのは、目的達成意識が低い人ではないかと、いまでは思います。それよりも、理念は一緒であることを共有した上で、方法論をすりあわせていった方がいい。みんな生徒のためにやったことだから過去は100%OK、未来のためにやり方を変えましょう、と。
こうした前例否定は、後継ぎ経営者がよく陥る失敗例です。ある経営者は、それで3年間をムダにしたと言っていました。
――私学経営者でも、そうした2代目は多そうですね。