Photo:アフロ
11月1日、ロシアのメドベージェフ大統領の北方領土訪問を受け、日ロ関係に緊張が走っている。
2日の外務省の政務三役会議では、三井物産や三菱商事が出資するサハリン沖の資源開発事業「サハリン2」への融資の一時停止案まで検討された。一昨年、国際協力銀行はサハリン2への37億ドルの融資契約を結んだ。サハリン2は総事業費200億ドル、LNG換算で3億4000万トンの埋蔵量を誇る。設備の完成に15年をかけ、今年2月に稼働したばかりだ。
先月、東シベリアで1億バレルの油田を発見した石油天然ガス・金属鉱物資源機構の本村真澄主席研究員は、「融資の一時停止は自爆行為だ。今以上に日ロの対立が進めば、中国同様、国家資本主義的な要素が色濃いロシアへの新規投資が困難になる」と不安視する。
メドベージェフ大統領はさらに歯舞諸島と色丹島への訪問も計画中とされる。「実行されれば、両国関係の修復は困難になる。ロシアの油田は日本に近く保険料も中東より安い。この事業でつまずけば、日本は資源獲得のためロシア進出を目論む中国や韓国のサンタクロースになる」(本村主席研究員)。
サハリン事業に参加しながら、こうした危機感とは無縁の企業もある。三井物産だ。「わが社のロシアにおけるプレゼンスは高く、今回の事態では揺るがない」──。ある幹部は自信をのぞかせる。背景には飯島彰己社長とロシア最高権力者との“サシ”の会談がある。
飯島社長は先月18日、ロシアでプーチン首相と1時間近く一対一の会談を行った。「プーチン首相はもともと、日本びいき」(ある幹部)。席上、サハリン2や外資から同国への技術導入などが話し合われ、プーチン首相は飯島社長に「サハリン2における三井物産の役割を称賛し、今後の協力も惜しまないことを約束した」(同)という。
三井物産は現在、サハリン2の事業主体、サハリンエナジーに12.5%出資する。2007年にロシア国営のガスプロムが、ロイヤル・ダッチ・シェルや三井物産、三菱商事から権益の50%と1株を買収したため、出資比率は当初の25%から半減した。
ガスプロム参画の際、既存株主がその参入阻止に走るなか、三井物産はロシア側支持に回った。「サハリン2をロシアが握れば政治のカードにされにくい。実際、ガスプロムが株主になり、政治面や資金面での課題がスムーズに解決できるようになった。ロシアはそういう国だ」(別の幹部)。
三井物産は欧米企業を中心とするプーチン首相の諮問機関「ロシア外国投資諮問会議(FIAC)」のメンバーだ。サハリン2で獲得した信頼が効いたのだという。実際、三井物産は資源以外にも自動車や鉄道など10近い案件をロシアで進めている。
もっとも、サハリン2で売った“恩”は、「サハリン3」に効くとは限らない。サハリン3の天然ガスの予想埋蔵量はサハリン2の約2倍とされるが、事業化の時期も、事業主体も未定だ。ロシア側とサハリン2の外資メンバーとのあいだでは、サハリン3に外資を入れる場合、同じメンツを集めるとの契約があるというが、外交の亀裂がビジネスに甚大な影響を及ぼした中国のレアアース(希土類)輸出制限の例を想起せざるをえない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 宮原啓彰、脇田まや)