第1回では、インターネットの世界のオープン&シェアという慣習に基づき、他社の似通ったUI(ユーザーインターフェース)デザインを柔軟に認めつつも、悪意のある模倣品に対しては意匠権を行使するというLINEヤフーの姿勢を聞いた。同社のデザイン・知的財産担当者と特許庁の意匠審査官とが語り合う2回目は、意匠の戦略的な権利化のプロセスについてだ。(以下本文中敬称略)
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LINEヤフー Design Executive Center UXD本部 町田宏司 本部長
LINEヤフー 法務統括本部第二事業法務本部知的財産部 高部 博 部長
特許庁 審査第一部 環境・基盤意匠 神谷由紀 審査監理官
特許庁 審査第一部 情報・交通意匠 伊藤翔子 審査官
知財部はデザイナーに伴走しながら権利化を考える
神谷 第1回では「Yahoo!乗換案内」も「Yahoo!天気」も完成品とは考えておらず、提供した後でもユーザーの声を聞きながら修正を加えたりして磨き上げていく作業を続けているというお話でした。その修正した部分の権利化についてはいかがお考えですか。
高部 デザイナーがデザインを磨き上げていく過程で、さまざまなバリエーションのデザインが生まれます。そうしたアップデートが行われていくデザインについても出願を検討します。 法改正により関連意匠制度が拡充されたことで、一連のバリエーションのデザインをどう保護するか検討することもできるようになりました。
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神谷 関連意匠制度の話は少し複雑なので説明させてください。原則的には、類似のデザインを二つ以上登録することはできないのですが、同じ出願人によって創作されたバリエーションのデザインに限っては登録を認める、というのが関連意匠制度です。2020年4月以降は、最初のデザインと類似するデザインを関連意匠として出願できる期間が約8カ月から約10年に大幅に延長となったり、最初のデザインには似ていなくとも関連意匠には似ているさらに後続のデザインも意匠登録可能になったりしたことで、いわば「数珠つなぎ」の意匠群も保護できるようになるなど、大きな刷新がありました。
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高部 関連意匠として出願できる期間の延長に加えて「数珠つなぎ」ができるようになったことで、特に弊社のようにデザインを頻繁にアップデートしていく会社にとっては、 意匠制度が使いやすくなったと思います。
神谷 デザインを磨き上げていく過程で、知財担当者はどのようなアプローチで関わっていらっしゃるのでしょうか。
高部 まず、デザイナーにヒアリングをして、デザインの方向性や現状のUIにどんな課題があって、どう改善していくのか、その結果UIはどう変わるのかという基本的なところを聞きます。それで大きな方向性が分かるので、他社の権利を侵害しないかという調査をします。
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神谷 調査をしていくうちに他社の権利に抵触してしまうような可能性があるかもしれないときは 、デザイン部門にアドバイスをするということですか。
高部 そうですね。似た部分があればデザイナーに情報を伝えて、差別化を図るのであればこういう方法がありますという提案もします。デザインが完成してから権利化を検討するのではなく、デザイナーに伴走しながら、デザインの磨き上げと権利化を考えます。
次ページからは、LINEヤフーのデザイン部門に知的財産部が「伴走する」プロセスを明かす。