スタートアップを対象に、その保有技術の大規模実証を支援する国の「中小企業イノベーション創出推進事業(フェーズ3基金事業)」。農林水産省の所管分でも注目すべき取り組みが進んでいる。農林水産業に新しいフェーズを開く2例を取材した。

事例1: Eco-Pork(エコポーク)
危機に直面する世界の養豚業に
AIトレーナーと協調した肥育システムの構築で挑む

農林水産省が進めるスタートアップ支援:見えてきた!DXにとどまらない技術革新の社会実装東京都千代田区にあるEco-Porkにて

 2021年の世界の第1次産業(農林水産業)の生産額は約488兆円(※1)だが、そのうち最も生産額が多いのは豚肉(養豚)である。その額は40兆円(※1)。日本国内でも養豚の生産額は7194億円(※2)。全農業生産の7.6% (※2)を占める、動物性タンパク質の主役となっている。

 一方で、養豚業はさまざまな社会課題を抱えている。

 養豚業での飼料としての穀物消費量はコメの生産量の1.3倍(※3)あり、抗菌剤の使用量も鶏に比べて2倍以上(※4)になっている。温室効果ガス(GHG)排出量の削減も課題だ。

 さらに経営の視点では、養豚業は日本国内で飼育戸数が15年間で半減して3130戸になった(2024年)(※5)。1戸当たり平均飼育頭数は逆に15年前の約2倍の2811頭に増えて大規模経営化が進んだ(※5)。肥育豚1頭当たりの平均労働時間は従事者数の減少等により増加傾向にある(※6)。

※1 FAOSTAT「Value of Agricultural Production」(FAO, 2023)(アクセス日:2024年1月8日)を基にEco-Pork試算
※2 令和5年農業総産出額及び生産農業所得(全国)(農林水産省)
※3 生産量と消費量で見る世界の米事情(農林水産省)を基にEco-Pork試算
※4 薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書(薬剤耐性ワンヘルス動向調査検討会 2022年)
※5 「畜産統計」(各年2月1日現在)(農林水産省)
※6 「豚をめぐる情勢(令和6年11月)」(農林水産省)
 

 次ページからは、循環型の豚肉経済圏の実現に迫る。