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トンデモ人事部が会社を壊す

「残業ゼロの陰で仕事持ち帰り」は人事部の怠慢が原因だ

山口 博
【第53回】 2016年9月20日
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社員の健康に留意しつつ、ビジネスの伸展を図ることはもちろん不可欠なことだが、残業時間削減キャンペーン、有給休暇取得の義務化に見られるような一律の運用は、逆にビジネスを阻害する。例外を頑として認めないトンデモ人事部のマインドは、滑稽ですらある。

運用重視で患者を追い返す
小規模医院に見る「ルール厳守」の弊害 

 久しぶりに風邪をひいて、朝9時の診療開始時間に合わせて、かかりつけのS内科医院へ、数年ぶりに出向いた。古い診察券と保険証を出して、診察を受けたい旨伝えると、予約の有無を問われた。「現在では、感染予防と、患者さんをお待たせしないようにするために、診療予約制度を導入しています」と言う。

残業ゼロを実現するために、自宅に仕事を持ち帰る社員が増えてしまっては、本末転倒もいいところ。ルールを厳格に運用できてさえいれば人事部はOK、と考えるのなら、それは怠慢でしかない

 予約はしていないと答えると、驚くべき答えが返ってきた。

 「突然おいでいただいても診察を受けることはできません。どうしても本日ということでしたら、12時においでいただければ、それでも、お待たせすると思いますが、診察を受けることができるかもしれません」と言うのだ。

 傍目にはそう見えなかったのかもしれないが、私はかなり体調が悪かったので、12時に再び来院しようというエネルギーがわかず、言い返す気持ちすら起きなかった。「わかりました」とだけ答えて、隣のビルの別の医院に移動して、診察と処方を受けることができた。

 S院長とは長い付き合いだ。今回は、二の句を継ぐエネルギーがなかったので、何も言わずに退散したが、もし院長と直接話をすることができていれば、彼は来院したつらい症状の患者に対して「3時間後に来い」と追い返すことは、絶対にしないだろうと思う。S院長は、診療を通じて国民の健康増進にいささかでも貢献するというミッションを遂げようとする熱意を持った人だ。おそらくは予約者の状況をふまえながら、予約の合間に、診察をしてくれたに違いない。

 受付の担当者は、導入した診療予約制度に忠実に従っただけだと言えるかもしれない。しかし、それが、院長のミッションとは反してしまった。かつて、S医院はS院長と事務担当の夫人の2人だけで運営されていた。S院長と夫人は一心同体のように見受けられ、夫人はS院長のミッションを体現された対応をしてくださっていた。しかし、医院の規模が大きくなり、看護師や事務の方も増えた。それにつれて、S院長の持つミッションが、全てのメンバーに移植されなくなってしまったように思われる。

 たかだか一医院の、それも1人の受付担当者の気が利かなかっただけではないかと思う読者もいるだろう。しかし、業務の担い手が増えることによって、組織の本来の目的が組織のメンバーに伝達されなくなるというトンデモな事態は、企業人事のまわりに山ほどあるのだ。そして、本来のミッションと逆行する運営がはびこった結果、本来のミッションが跡形もなく消え失せてしまうことさえあるのだ。

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山口 博

やまぐち・ひろし/慶應義塾大学法学部政治学科卒(サンパウロ大学法学部留学)、長野県上田市出身。国内大手保険会社課長、外資系金融保険会社トレーニング・シニア・マネジャー、外資系IT人材開発部長、外資系企業数社の人事部長、人事本部長歴任後、現在、コンサルティング会社のディレクター。横浜国立大学大学院非常勤講師(2013年)、日本ナレッジ・マネジメント学会会員。近著に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)がある。

 


トンデモ人事部が会社を壊す

サラリーマンの会社人生のカギを握る人事部。しかし近年、人事部軽視の風潮が広まった結果、トンデモ人事部が続々と誕生している。あっと驚く事例をひもときながら、トンデモ人事部の特徴や、経営陣がすべき対処法などを探っていく。

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