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トンデモ人事部が会社を壊す

社員の半数が逃げ出した!トンデモM&Aは誰の責任か?

山口 博
【第49回】 2016年7月26日
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M&A件数は5年連続で増加し、今年も昨年を上回る、年間2,500件を超える勢いである。M&A後の統合を実現するためのアクションプラン「100日プラン」は普及しているように思えるが、たった一言でM&Aを失敗させてしまうトンデモ事例が後を絶たない。

「つべこべ言わずに従え!」
被買収企業は奴隷か?

 今から5年前のこと。M&Aをした側、つまり買い手企業S社の役員K氏から、買われた企業の人事部長だった私に、会議中に電話がかかってきた。通常、会議中の電話には出ないのだが、会議に遅刻している参加者からかもしれないと思い、電話に出ると、「時間がないので用件のみ言う。給与制度統合に反対しているようだが、これは決定事項だ!」と、K氏の叫び声が聞こえた。

「買われた側なのだから当たり前だろう」とばかりに方針をゴリ押しした挙げ句、人材流出が起こる――そんな残念すぎるM&Aが続出している

 M&Aプロセスを進める中で、私は買い手企業の社長や人事部長に「制度統合を考えていますか?」と複数回確認し、その度に「制度統合は考えていません」と回答されていた。

 念のため、「しかし、将来的に検討したいとお考えなのではありませんか?」と聞くと、「そのタイミングは、(買われた企業の)御社が(買い手企業の)当社の制度をよく検討されて、御社が統合したいと思ったら、検討を始めるということで良いですよ。これまでは、これまでどおりのやり方で進めてください」と満面の笑みで説明されていた。

 M&Aの教科書に書かれているような優等生的回答だ。買う側と買われる側で何度かM&Aを経験してきた私は満足し、「S社となら良いM&Aが実現するに違いない」と考えた。

 このような背景があったので、電話をしてきたK氏に、「『制度統合は考えていない』と聞いていましたが、どういうことでしょうか?」と聞くと、「つべこべ言わずに、従えーーー!」と叫ぶではないか。私はキレそうになる気持ちをなんとか押さえながら、「Kさん、僭越ですが、そういうコミュニケーションはないのではないでしょうか…。申し訳ありませんが、会議中なので、失礼します」と、罵声を浴びせ返す前に、かろうじて電話を切った。

 読者の方々は、この例をどう思うだろうか。「買われたのだから、当たり前だろう」と思う人もいるに違いない。しかし、私には、M&A後のPMI(Post Merger Integration、買収後の統合)で、買い手企業が絶対やってはいけないことの典型例だと思える。そして、コンサルタントとしてPMIのサポートをしていると、私が経験したような事例がとても多いことに気づく。

 PMIでは、経営方針、財務経理、人事制度、営業プロセス、事務プロセスなど、さまざまな領域の統合検討が必要になる。100日プランを綿密に立て、その担当者を決めて、着々と実行していくことが必要だ。

 しかし、その100日プランを一言で台無しにしてしまうのが、コミュニケーションだ。冒頭の例は、買い手企業から買われた企業へのコミュニケーションの悪い例だが、買い手企業の内部でのコミュニケーションの問題もある。

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山口 博

やまぐち・ひろし/慶應義塾大学法学部政治学科卒(サンパウロ大学法学部留学)、長野県上田市出身。国内大手保険会社課長、外資系金融保険会社トレーニング・シニア・マネジャー、外資系IT人材開発部長、外資系企業数社の人事部長、人事本部長歴任後、現在、コンサルティング会社のディレクター。横浜国立大学大学院非常勤講師(2013年)、日本ナレッジ・マネジメント学会会員。近著に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)がある。

 


トンデモ人事部が会社を壊す

サラリーマンの会社人生のカギを握る人事部。しかし近年、人事部軽視の風潮が広まった結果、トンデモ人事部が続々と誕生している。あっと驚く事例をひもときながら、トンデモ人事部の特徴や、経営陣がすべき対処法などを探っていく。

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