芸術家を志す者たちにとっての最高学府・東京藝大

二つの芸術がシメントリーのように共存
東京都心「最後の秘境」東京藝大

『最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常』
二宮 敦人著 新潮社 288p 1512円(税込)

 大学に関するノンフィクションは数あれど、藝大がテーマというのも珍しいなと思い読み始めたのだが、中に登場する人物たちは、もっと珍しかった。まさに珍獣、猛獣のオンパレードである。

 舞台となる東京藝大は上野にキャンパスがあり、芸術家を志すものたちにとっての最高学府である。上野駅を背にして左が美術学部で、右が音楽学部。美術と音楽、二つの芸術がまさにシンメトリーのように共存しているのが、特徴の一つだ。

 まるで町工場のような美校の校舎と厳格なセキュリティに管理された音校の校舎。ほぼ全員遅刻の美校と、時間厳守の音校。なんでも作ろうとする人と、洗い物さえしない人。何もかも自前で飲み会をする人と、鳩山会館で同窓会をする人。 普通なら交わることのなかった両者が、同じ校舎に通う。それが東京藝大なのだ。

 著者は、現役の藝大生を伴侶に持つラノベ作家。一緒に暮らしていく中での、あまりに不思議な暮らしぶりに興味を持ち、妻を案内役としてキャンパスへ足を踏み入れた。本書は、東京都心「最後の秘境」と言われる東京藝大に潜入し、全学部・全学科を完全踏破した前人未到の探訪記である。

 藝大への入学は、80人の枠を約1500人が奪い合う狭き門だ。しかも入試問題で出題されるのは、珍問・奇問の数々。

“問題:自分の仮面をつくりなさい
 ※総合実技2日目で、各自制作した仮面を装着してもらいます”

 さらに問題の続きには、

“解答用紙に、仮面を装着した時のつぶやきを100字以内で書きなさい
 ※総合実技2日目で係りの者が読み上げます”

 と、書かれていたという。

 また、鉛筆、消しゴム、紙を与えられて、「好きなことをしなさい」という問題に出くわした受験生もいるというから、もう驚くよりほかはない。

 そして難関を突破した彼らたちを入学後に待ち受けているのは、この言葉だ。