──クリエイターの感覚を持ちながらも、顧客の立場で仕事をしていたのですね。

 そうかもしれません。忘れられないのは、入社して数年の駆け出しの頃、ゲームのクオリティチェックの仕事を任されたときのことです。開発中のゲームをプレイして、良いところと悪い部分を会社に伝えるのですが、そこで一度、大きな失敗をしてしまいました。

 ゲームの優れたところ、改善すべきところを「上から目線」で、何も考えずに言葉にしてしまいました。それを受け、会社からは開発チームに修正の命令が出るのですが、それがチームの反発につながり「恨む」とまで言われてしまったのです。

 自分が同じようにものづくりをする立場になると分かりますが、一枚の画を描くのにしたって、ものすごく複雑な過程をたどってできるわけですね。文章で言えば、何度も何度も推敲したような状態でようやく人に見せるわけです。

 そのため、現場には、現場のプライドと理屈がある。全身全霊で作っているのに、「ちょっと面白くないですね」といった言い方がいかに相手を傷つけるのかを理解しました。もし同じことを言うにしても、作り手に伝えるときは、むき出しの言葉で表現してはいけない、それがいかに暴力的な行為なのかを強烈に学んだ体験でした。

監督のフェチが入らなければ
なかなかうまくいかない

──新海監督を「人の話を良く聞く方だ」と評するプロデューサーの方もいますが、そういった会社員時代があったのですね。今回は、東宝と組んで脚本会議を行ったこともヒットの要因のようですが、そこはどうお感じですか。

 今回の作品においては、脚本の「開発」を徹底的にやりました。脚本会議では、東宝の川村元気プロデューサーやスタッフに脚本を読み込んでもらい、意見を出してもらいました。毎回、初めて映画を見た人の視点で、観客の気持ちがどう流れていくかを徹底的に考え尽くす。チームで顧客の気持ちをシミュレートし続けるという作業だったと思います。

 とはいえ、スタッフの意見も一人一人違いますから、最終的には平均値みたいなものを出さないといけない。ときには「これがいいと思う人?」と多数決で決めることもありました。

 ただ、川村さんは「最後は監督のやりたいことをやらないとだめだ」と言ってくれました。票が割れたときは、監督の私に全て引き寄せる。それも、監督の好みやフェチが入らなければなかなかうまくいかないからだということでした。一人の人間の感性で、1本の背骨みたいなものを作品に差し込む。そのため、最終的には自分がやりたいこと、自分の好みの方向に全部引き寄せました。

 つまり、チームで一度徹底して観客になって、最後は全部自分の好みに引き寄せる、そのような作り方をしていきました。