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ニューロビジネス思考で炙り出せ!勝てない組織に根付く「黒い心理学」 渡部幹

ディズニー映画「ズートピア」が暴く3つの見えない差別

渡部 幹 [モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授]
【第57回】 2016年8月31日
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大絶賛の子ども向けアニメで描かれる
本当に怖い差別の仕組み

 本連載「黒い心理学」では、ビジネスパーソンを蝕む「心のダークサイド」がいかにブラックな職場をつくり上げていくか、心理学の研究をベースに解説している。

 今年前半にヒットしたディズニーアニメーション『ズートピア』のDVD・ブルーレイが先週、日本国内で販売が始まった。英語版はすでに販売されており、マレーシア在住の筆者は1ヵ月ほど前に(子どもにせがまれて)購入し、何度か観た。

「差別は悪いことである」との「常識」が共有されていても、人間の心は「差別の源泉」とでも呼ぶべきものを隠し持っているのではないか。「ズートピア」は、リアリティあふれる人間のそんな“習性”をあぶり出している秀作だ

 この映画が「映画として」非常にクオリティが高いのは、すでに多くのサイトや雑誌で紹介されている通りだ。

 スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーが宮崎吾郎氏とともに観に行き、そのあまりの素晴らしさに、そのまますぐに宮崎駿氏に会いに行って「凄いもの観た」と報告したり、全米のディズニーアニメーション興行記録(公開直後分)を塗り替えたりといった事実だけでなく、米国最大の映画批評サイト「ロッテントマト」で、肯定的レビューが98%と、幅広い層から「絶賛」されていることからも、この映画のクオリティの高さがうかがえる。

 これほど絶賛されるのは、子どもも楽しめるディズニーの高いエンターテイメント性を保ちつつ、非常にユニークな設定で現代(特にアメリカの)社会の持つ社会問題を提起しているからだろう。

 動物の毛並みを細部にわたって再現できる「iGroom」という最新CG技術、親しみやすく魅力的な「社会のために尽くす」キャラクター、話題づくりに事欠かない小ネタやギャグの数々、アメリカ社会への皮肉など、評価すべき見せ場は多い。それは先日の記事(ディズニー映画を凌駕!ジョブズが作ったピクサーの「チーム力」)で紹介した、ジョン・ラセターがディズニーに導入した「ピクサー方式の製作体制」が、ますます効果を発揮したことの現れだと考える。

 主要な脚本家だけで7人おり、その中にはこの作品の監督を務めたバイロン・ハワード(監督代表作は「塔の上のラプンツェル」)とリッチ・ムーア(同「シュガーラッシュ」)のほか、「アナと雪の女王」の監督であるジェニファー・リーも含まれている。この映画の成功とクオリティを見れば、集団でストーリーを練り上げ、分担して細部を作り上げるラセターのやり方が、とてつもないシナジー効果を発揮していることがわかるだろう。

 上記に紹介した「見どころ」については、すでに多くの映画批評サイトや雑誌で述べられている。一方で、筆者が社会心理学の専門家として注目したいのは、この一見ファミリー向けに作られた映画の持つ「実は重々しいテーマ」と、ストーリーに組み込まれた「本当に怖い差別のしくみ」の方だ。そしてこれはビジネス組織で日々暮らしている我々にも関係する。以下ネタバレにはならないように紹介する。

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渡部 幹(わたべ・もとき)
[モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授]

UCLA社会学研究科Ph.Dコース修了。北海道大学助手、京都大学助教、早稲田大学准教授を経て、現職。実験ゲームや進化シミュレーションを用いて制度・文化の生成と変容を社会心理学・大脳生理学分野の視点から研究しており、それらの研究を活かして企業組織にも様々な問題提起を行なう。現在はニューロビジネスという大脳生理学と経営学の融合プロジェクトのディレクターを務めている。代表的な著書に『不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか』(共著、講談社刊)。その他『ソフトローの基礎理論』(有斐閣刊)、『入門・政経経済学方法論』、『フリーライダー あなたの隣のただのり社員』 (共著、講談社)など多数。


ニューロビジネス思考で炙り出せ!勝てない組織に根付く「黒い心理学」 渡部幹

この連載の趣旨は、ビジネスマンのあなたが陥っている「ブラック」な状況から抜け出すための「心」を獲得するために、必要な知識と考え方を紹介することにある。社員を疲弊させる企業が台頭する日本社会では、「勝てない組織」が増えていく。実はその背景には、マクロ面から見た場合の制度的な理由がある一方、日本人の持つ国民性や心理もまた、重要な要因として存在する。そうした深いリサーチが、これまで企業社会の中でなされてきただろうか。本連載では、毎回世間で流行っているモノ、コト、現象、ニュースなどを題材として取り上げ、筆者が研究する「ニューロビジネス」的な思考をベースに、主に心理学や脳科学の視点から、その課題を論じていく。あなたは組織の「黒い心理学」を、解き明かすことができるか。

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