12月3日(金)に発表された米国雇用統計は、事前予想を大きく裏切る「ネガティブ・サプライズ」となりました。
それでは、「雇用統計ショック」で11月から続いてきた「米ドル高」は終わったのでしょうか?
「脇役・米雇用統計、主役・ユーロ危機」というドラマの推移を慎重に見極める必要がありますが、私は「米ドル高」の流れは変わっていないと考えています。
「米ドル高」が続くか、米金利の動向が1つのカギ
今回の米国雇用統計において、非農業部門雇用者数(NFP)の前月比の伸びは、事前予想の15万人程度に対して、それを大きく下回る3.9万人という結果にとどまりました。
失業率も大幅に悪化していて、前月比横ばいの9.6%との予想に対し、一気に0.2%も上昇し、9.8%となりました。
このように、米国雇用統計の結果は、ちょっとショッキングなほど悪いものでしたが、これを受けて金融市場はどのような動きになったのでしょうか?
まず、為替市場では米ドルが急落しました。その一方で、米国株や金利は「雇用統計ショック」とは言いにくい相場となりました。
NYダウは下落して取引をスタートしたものの、最終的には小反発で引けました。
金利も、政策金利を反映するとされる2年もの米国債の利回りは大きく0.07%も低下しましたが、長期金利の指標銘柄である10年もの米国債の利回りは小幅ながらも0.02%の上昇となりました。
この米国の長期金利の動きは、為替相場の行方を考える上でとても重要だと思います。
資料1
「資料1」はこのコラムでもよく確認する、米長期金利と米ドル/円のグラフを重ねたものです(「国債買い入れ決定と米金利上昇は矛盾?しかし、前回も動きは同じだった!」を参照)。
これを見ると、11月以降、それまでの「米ドル安」から「米ドル高」へ転換したのは米国の金利が上昇に転じたからであり、つまり、「米ドル高」がこの先も続くかどうかは、米国の金利上昇が続くかが1つのカギと言えるでしょう。
世界経済は「ユーロ危機本位制」のようになっている
このように、「雇用統計ショック」にもかかわらず、米長期金利とともに米国株も小幅上昇となりました。
ただ、ユーロ/米ドル相場で「ユーロ高・米ドル安」に振れたことを考慮すると、むしろ当然の結果だったのです。
「資料2」は、NYダウとユーロ/米ドルを重ねたものですが、これを見ると、今年4月下旬頃からNYダウとユーロの「正の相関関係」が続いていることがわかるでしょう。
その意味では、「米ドル安」の結果が「ユーロ高」であり、それで米国株高となったのは、それ自体は当然の結果なのです。
資料2
それでは、なぜ、ユーロと米国株の「正の相関関係」が半年以上も続いているのでしょうか?
これは「ユーロ危機」が今年の年央にかけて深刻化する中で、欧州にとどまらず、米国、ひいては世界経済を左右する要因になったということではないでしょうか?
このように考えると、「ユーロ危機」が深刻化すると米国株も急落し、「ユーロ危機」が小康状態になると米国株も上昇が再開するといった感じで、世界経済が「ユーロ危機本位制」のようになっているのも何となくわかる気がします。
極端な言い方をすると、現在、金融市場で最も影響力が大きいのは「ユーロ危機」なのであり、その影響力に比べると、米国雇用統計でさえも脇役になってしまうということではないでしょうか?
このように考えてくると、「雇用統計ショック」でユーロ高が進み、米国株、米国の金利が下がらなかったことは、つじつまが合うと思います。
ユーロの1.3ドル割れは「買われ過ぎ」の反動だった
米国雇用統計の発表前、先週の金融市場においての最大の注目点は、まさに「ユーロ危機」の前提になっている欧州の財政問題でした。
これについて、「米国も支援に前向き」といった観測が広がり、ECB(欧州中央銀行)が「救済策を続ける」と表明すると、それらをきっかけにして欧州財政問題への懸念はいったん後退しました。
その上で、ユーロのポジション動向を次のページで見てみましょう。