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7つの知性を磨く田坂塾

世界最大のシンクタンクで学んだ「企画の極意」

田坂広志 [田坂塾・塾長、多摩大学大学院教授]
【第10回】 2016年10月5日
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拙著、『知性を磨く』(光文社新書)では、21世紀には、「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という7つのレベルの知性を垂直統合した人材が、「21世紀の変革リーダー」として活躍することを述べた。
この第10回の講義では、前回に続き「技術」に焦点を当て、拙著、『企画力 − 人間と組織を動かす力』(ダイヤモンド社:PHP文庫)において述べたテーマを取り上げよう。

米国シンクタンクの企画会議の凄み

 今回のテーマは、

 世界最大のシンクタンクで学んだ「企画の極意」。

 このテーマについて語ろう。

 冒頭に掲げた通り、今回の講義のテーマは「企画力」。

 その「企画力」で、永年仕事をしてきた一人の人間として、筆者自身の体験を交えながら、「企画力」を磨くための心得と技法について話をしよう。

 では、まず最初に、

「企画力」とは、何か。

 少し大上段な問いであるが、最初に、このことについて、述べておこう。

 もとより、こうした大上段の問いに対しては、人によって様々な答えがあるだろう。また、様々な答えがあってしかるべきであろう。一つの分野でプロフェッショナルをめざし、道を歩んでいる人間ならば、こうした大上段の問いに対しても、必ず、その人なりの覚悟と答えを持っているだろう。その意味で、筆者自身も、この問いに対して、明確な答えを持っている。

 それを一言で述べるならば、

人間と組織を動かす力。

 それが「企画力」である。

 筆者は、永年、米国と日本のシンクタンクの世界で働いてきたが、この業界は、まさに「企画力」というものが商品。すべての仕事において、この「企画力」が求められる業界である。その世界で永く仕事をしてきた人間として、もし「企画力とは何か」と問われれば、迷うことなく、「人間と組織を動かす力」。そう答えるだろう。

 では、なぜそう述べるのか。

 それは、米国のシンクタンクで働いたときの経験からである。もとより、筆者は、それ以前にも、日本の民間企業において「企画力」が求められる仕事をしてきたが、「企画力とは何か」ということについて、本当のプロフェッショナルの覚悟を学んだのは、30代の頃、米国に本拠を置く世界最大の技術系シンクタンク、バテル記念研究所で働いたときであった。

 このバテル記念研究所は、その名前を知らない読者も多いと思うが、実は、読者諸氏の生活や仕事に極めて身近なシンクタンクである。

 例えば、読者諸氏が毎日コピーに使っているゼロックス。また、クレジットカードなどの上に印刷されているホログラム。そして、商品に印刷されているバーコード。こうした技術を開発したのは、この技術系シンクタンク、バテル記念研究所である。

 しかし、正確に言えば、この研究所は、単なるシンクタンクではない。この研究所は、シンクタンクといっても、単に「思考する」だけの「シンクタンク」(Think Tank)ではなく、様々な分野の新しい技術を研究・開発し、さらに、実用化・事業化する、「行動する」シンクタンク、いわば「ドゥータンク」(Do Tank)である。

 少し専門的な言葉で言えば、この研究所は、新しい技術の卵を「孵化(ふか)」(インキュベート:incubate)させる組織、いわゆる「テクノロジー・インキュベータ」(Technology Incubator)と呼ばれる組織である。

 そして、筆者が「企画力」ということについてプロフェッショナルの覚悟を学んだのは、このシンクタンクに着任してしばらく経った頃、あるプロジェクトの企画会議に出席したときのことである。

 それは、当時、最先端のテーマであった「人工知能」の研究開発についての企画会議であった。米国政府から受託した数十億円の研究開発予算を使って、どのようなプロジェクトを実施するか。各研究員が色々な企画を出し合い、どの企画で行くか、その検討と意思決定をする会議であった。

 こうした会議では、最初に、各研究員がそれぞれの企画書を提出し、研究所の部門ディレクターの前で交互にプレゼンテーションを行う。そして、全員での議論の後、最後に、そのディレクターが、どの企画を採用するか、意思決定をする。

 その日も、いつものように各研究員のプレゼンテーションが始まったのだが、それらの中に、筆者の目から見ると、なかなか面白い企画提案があった。まず企画の切り口が面白い。企画書も、時間をかけてよく考えられている。その研究員のプレゼンテーションも、上出来。そう感じた。

 そして、すべての研究員の企画提案と議論が終わり、いよいよディレクターが採用する企画を決める場面がやってきた。ところが、筆者の期待に反し、そのディレクターは、他の研究員の提案した企画を採用したのである。残念ながら、彼の企画は、採用されなかった。

 筆者は、彼の企画はなかなか悪くないと思っていた。だから、このまま不採用にしてしまうのは惜しい企画に思えたので、会議が終わった後、そのディレクターに話しかけた。

 そのディレクターは、穏やかな物腰の、人間的にも尊敬できる人物であり、たまたま親しい関係でもあったことから、私は、率直に聞いた。

 「あの彼の企画は、不採用か」
 「そうだ」
 「しかし、良い企画だと思うが」
 「たしかに、悪くはない。しかし、今回のプロジェクトでは、不採用だ」
 「良い企画だと思うのなら、今回のプロジェクトの一部に組み入れることはできないのだろうか」
  「それはできない。予算も限られている」

 その返事を聞いたとき、筆者の日本人的情緒が頭をもたげ、思わず、次の質問をした。

 「しかし、彼は、かなりの時間を使って、あの企画書を書いてきたのではないか。もし、あの企画が不採用になるのならば、では、彼が努力して書いてきた、あの企画書は、いったい何なのか?」

 しかし、このときディレクターから戻ってきたのは、当時の筆者にとっては、耳を疑う言葉であった。

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田坂広志 [田坂塾・塾長、多摩大学大学院教授]

1951年生まれ。74年、東京大学卒業、81年、同大学院修了。工学博士(原子力工学)。87年、米国シンクタンク・バテル記念研究所客員研究員。同時に、米国パシフィックノースウェスト国立研究所客員研究員。90年、日本総合研究所の設立に参画。戦略取締役を務め、現在、同研究所フェロー。2000年、多摩大学大学院教授に就任。社会起業家論を開講。同年、シンクタンク・ソフィアバンクを設立。代表に就任。2003年、社会起業家フォーラムを設立。代表に就任。2008年、ダボス会議を主催する世界経済フォーラムのグローバル・アジェンダ・カウンシルのメンバーに就任。2010年、4人のノーベル平和賞受賞者が名誉会員を務める世界賢人会議・ブダペストクラブの日本代表に就任。2011年、東日本大震災に伴い、内閣官房参与に就任。原発事故対策、原子力行政改革、エネルギー政策転換に取り組む。2012年、民主主義の進化をめざすデモクラシー2.0イニシアティブの運動を開始。代表発起人を務める。2013年、全国から3000名を超える経営者やリーダーが集まる場、「田坂塾」を開塾。「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という「七つのレベルの知性」を垂直統合した「スーパージェネラリスト」への成長をめざし、塾生とともに研鑽を続けている。著書は、知のパラダイム論、未来予測論、地球環境論、複雑系社会論、情報革命論、知識社会論、民主主義進化論、資本主義進化論、産業政策論、経営戦略論、マネジメント論、リーダーシップ論、戦略思考論、プロフェッショナル進化論、社会起業家論、社会的企業論、仕事論、人生論、詩的エッセイ、詩的寓話など、様々な分野において国内外で80冊余。(所感送付先:tasaka@hiroshitasaka.jp
◇主な著書 『知性を磨く - 「スーパージェネラリスト」の時代』(光文社) 2014
『人は、誰もが「多重人格」 - 誰も語らなかった「才能開花の技法」』(光文社)2015
『人間を磨く - 人間関係が好転する「こころの技法」』(光文社)2016

 


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多くの問題が山積する21世紀、目の前の現実を変革するために、我々は、思想、ビジョン、志、戦略、戦術、技術、人間力という「7つのレベルの知性」を、垂直統合して身につけ、磨いていかなければならない。知性を磨き、使命を知り、悔いのない人生を生きるために、いま、我々は何を為すべきか。現代の知の巨人が語る。

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