――研究のきっかけについて「誰もやらないことをやりたかった」と発言されています。誰もやらない研究テーマが数多くあるなかで、なぜ、オートファジーの発見につながる、液胞の研究に取り組んだのですか。

 いくつもあるんですが(笑)、実をいうと、今回の研究の始まりとなった液胞というものに注目したのは、私が東京大学理学部の植物学教室にいた影響が大きいと思います。

 液胞はめちゃくちゃ面白いんですよ(笑)。実を言うと、私たちは液胞の恩恵をいっぱい受けて生きているんです。植物のバラの色は、液胞に蓄積した色素の色です。リンゴの蜜になる糖分も、レモンが酸っぱい原因も、薬剤に活用されるアルカロイド(化学物質)も、植物はみんな液胞に貯め込んでいます。

 液胞はとても多彩なオルガネラ(細胞小器官)なんです。それなのに、かつては “ゴミ溜め”だと思われていたんですよ。だけど、何か重要な役割を担っているのではないかと私は感じたのです。

 また、私は細胞の膜に興味があり、(当時研究の主流だった)セントラルドグマ(DNAからRNA、タンパク質へとつながる遺伝情報の流れ)から離れたテーマを研究したいと感じたことも理由の一つです。

Photo:DW

 私はよく学生にこんな話をします。植物細胞の体積の約9割を液胞が占めていることは、中学や高校の教科書の模式図で見たことがありますよね。だけど、学生に「なんで植物はこんなにでっかい液胞を持っているのか、考えたことがあるかい?」と質問すると、ほとんどの人が「実はないんですよ」と答えます。そこに、たくさんの面白い研究テーマのヒントが隠されているのです。

 だから私は、「知っている」ということと、「理解している」ということの違いを、学生に強調しています。生命現象を描いた素晴らしい画像があったときに、「それは知っている、見たことがある」ということと、その本質が理解できたということは、まったく違うことなんだと、私はいつも学生に言っているんです。

――会見で「『役に立つ』という言葉が社会をダメにしている」と発言されています。とはいえ、ノーベル賞は社会に役立つことが判明してから受賞するケースが多いです。研究の進展で、オートファジーが役立つ部分も見えてきたのではないでしょうか。