強調しておきたいのは、ノーベル生理学・医学賞という名前ではありますが、私はそのうちの生理学という「基礎」的な学問に対する評価だと思っています。

 ですから、極端なことを言いますと、この研究でがんが治りますというような応用への評価ではなく、ベーシックな研究で、新しい領域が広がったことを評価していただいたと思いたいですね。

――基礎研究を軽視する風潮について、どう考えていますか。

 次世代の科学者が育ってくれる社会かどうかということを、とても心配しています。日本人のノーベル賞受賞が3年続きましたが、受賞者は研究の第一線から次第に消えていく人たちですからね。私もあと何十年も研究を続けるわけにはいきません。だから、「過去の遺産を食いつぶしているんじゃないか」と私は主張しています。

 今後、若手研究者が日本で次々とノーベル賞をもらうような仕事をできる環境にあるかというと、私はとても疑わしいと考えています。なぜなら、5年、10年の長期スタンスで考える研究が非常にやりにくくなっているからです。

 常に外部の評価に晒され、評価に追いまくられていると、「やっぱり答えが出る仕事以外はやりようがない」とか「結果が出る研究じゃないと、研究費が取れないかもしれない」となってしまう。

 自由な発想で自由に研究して、面白い発見があったらその研究者を一段階引き上げるような研究システムづくりを、私たちの責任で考えないといけないんじゃないかなと痛感しています。

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――文部科学省の科学研究費の配分が大型プロジェクト中心になっているという指摘もあります。

 研究者のために文科省も一生懸命頑張って科研費を出しているのでしょうが、なにせ、全体のお金が足りません。あと5倍くらいあれば、余裕が出てくるのではないでしょうか。せめて2~3倍でもあれば状況は変わってきますよ。

 今は研究費の絶対額が少なすぎるなかで、競争は激しい。となると、結局、誰が見ても相応しいというか、ある意味で評価が確立した研究者に研究費をあげましょうとなってしまいます。それでは、新たにチャレンジすることがなかなか難しい。そうした環境は改めるべきだと考えています。