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良い質問をする技術
【第2回】 2016年10月7日
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粟津恭一郎

「良い質問」とはどのような質問か?

日本で最も多く質問をし、思考を重ねてきたトップレベルのエグゼクティブコーチが10年来の探求と実践の成果をまとめた書籍、『良い質問をする技術』が発売されました。雑談・商談・会議・打合せ・取材で役立ち、上司・部下・取引先・家族・友人に感謝される「良い質問」とはどのようなものなのか?そのエッセンスを紹介する連載の第2回です。

池上彰さんの名台詞

 元NHKの記者で、現在フリージャーナリストの池上彰さんは、難しい政治や経済問題をとてもわかりやすく解説してくれることで有名で、テレビや新聞で大活躍されています。

 その池上さんの、誰もが知る名フレーズが、「いい質問ですねぇ!」です。皆さんもきっとお聞きになったことがあるでしょう。

 池上さんが司会する情報バラエティ番組などで、「いい質問ですねぇ!」とほめられたタレントさんたちは、みんな嬉しそうな表情をされます。質問がほめられて嬉しくなる気持ちは、日頃、質問ばかりしている私にも、とてもよくわかります。

 しかし、「いい (良い) 質問」とは、いったいどんな質問のことを言うのでしょうか?

「良い質問の仕方」について誰かに教わった経験がある人は、ほとんどいないはずです。

 私も仕事柄、これまで、仕事やプライベートでお会いする方々に「質問の仕方について教わったことがありますか?」と聞いてきましたが、明確に「習ったことがあります」という人にはまだ出会えていません。

 学校の授業でも、よく「質問がある人は手を挙げてください」と先生に促されます。手を挙げて質問する生徒は、「積極的だ」とほめられます。それだけ、「質問をすることは良いことだ」と、みんな思っているのです。

 ところが、文部科学省の学習指導要綱に「良い質問の仕方」について教えるカリキュラムがあるかといえば、いまのところ、そういったものはないでしょう。つまり、日本に生きるほとんどの人は、「自己流」で質問しているのです。

 そうやって「自己流」で身につけたスキルであるがゆえに、「質問の質」や「質問の使い方」は、人によってぜんぜん違います。無意識に習得したスキルであるからか、そもそも「質問が大切だ」と意識する人も、ほとんどいません。

 だからこそ、「質問」について学び、研究してみることを、私は多くの人にお勧めしています。「はじめに」で述べたとおり、質問のスキルを高めることは、コミュニケーション力を向上させるだけでなく、自分と周りの人の人生をより良くすることに直結するからです。

 私は「エグゼクティブコーチ」という職業についたことから、これまでずっと、多くの時間を費やして、質問について考えてきました。「エグゼクティブコーチという職業は質問をすることが仕事だ」と述べましたが、10年以上もの間、本当に四六時中、質問のことばかり考えてきたのです。

 その結果わかったのが、「人は質問に支配されている」ということです。

 私たちは意識的な行動をとる前に、自分自身に質問をすることで意思決定をしています。

 たとえば大切な商談を控えた人は、その前日に、「明日の約束は何時だっけ?」「なにを準備すればうまくいくだろう?」と、心の中で質問することで、出かける時間を決めたり、資料を作成したりします。

「明日の商談を確実に成功させるためには、どんな準備をすればいいだろうか?」と、自分に質問するから、準備という行動を取るわけです。なんらかの理由でその質問がなければ、なにも準備せずに商談に向かうかもしれません。

 人間がどのような行動をするかは、自分自身に対する質問の内容次第で決まるのです。

 ということは、「質問を変えれば、行動も変わる」ことになります。

 「良い質問とはなにか?」という問いへの私の回答もここにあります。問われた人が思わず答えたくなる、新しい気づきを与えてくれる質問こそが「良い質問」なのです。

 そもそも、「質問」の定義はなんでしょうか?一般的には、「疑問または理由を問合せただすこと」(『広辞苑』より)という意味の言葉です。授業中に先生に質問したり、人に道を聞いたり、インタビューで記者がする質問が、これにあたるでしょう。

 こうした、自分が情報を得るための質問ももちろん大事です。しかし質問の持つ力は、それだけではありません。繰り返して強調しますが、「良い質問」は、問われた人に新たな気づきを与え、その人に新たな思考や行動を引き起こす力があるのです。

 先ほど、「いい質問ですねぇ!」というフレーズを取り上げましたが、池上彰さんがこうおっしゃるときは、その質問が周囲の出演者やテレビの視聴者に(そして、もしかしたら池上さんご自身にも)、なんらかの気づきを与え、次への展開を促したときなのではないでしょうか。

 私たちエグゼクティブコーチが、クライアントを目標に近づけるために、「質問」を道具として使うのも、このことが理由なのです。

「良い質問」は人生を変える

 私自身も、いまから十数年前に受けたある1つの質問に大きな影響を受けました。その質問をくれたのは、私が役員を務めるコーチ・エィの創業者で、代表取締役でもある伊藤守です。伊藤は日本人ではじめて国際コーチ連盟が認定するプロのコーチとなった人物で、日本のコーチの草分けの1人です。

 転職してきてまだ数日しか経っていないある日、オフィスで座っていると、私は伊藤に声をかけられました。伊藤はいまでもオフィスを歩き回っては、あちらこちらで社員に声をかけて話しかけるのです。その日、伊藤は入社したばかりの私を見つけ、話しかけてきました。

「やぁ、粟津くん。粟津くんは、この会社でどんなことをしたいの?」

 どういう意図があっての質問かはわからなかったのですが、とりあえず正直に、「私はエグゼクティブコーチになりたいんです」と答えました。すると伊藤は、

「そうなんだ。じゃあ、エグゼクティブコーチになったあとは、なにをやりたいの?」

 と質問してきました。転職したばかりで、いまからエグゼクティブコーチの仕事を始めようというタイミングだったので、この質問には驚きました。

「え!?それはまだ考えていませんが……」

「そうなんだね。じゃあ粟津くんは、いつエグゼクティブコーチになるの?」

 この質問に対しても、ぐっと答えに詰まったのですが、「……そうですね、3年後くらいにはなりたいと思っているのですが……」と答えました。伊藤は「へえ、そうなんだ。じゃあまたね」とニコニコしながら去っていきました。

 このときの質問のやりとりはごく短いものでしたが、私にとっては大きなインパクトがありました。恥ずかしながら、伊藤から質問されてはじめて、「私はエグゼクティブコーチという仕事の具体的なイメージを持っていなかった」と気づいたのです。

 それまで私は、なんとなく「この会社に入れたのだから、そのうち自然にエグゼクティブコーチになれるだろう」と思っていました。自分がどんなエグゼクティブコーチになりたいか、エグゼクティブコーチになってどんなことをしたいか、そのためにはどのようなトレーニングをすべきなのか。そうしたことについて、なにも考えていなかったと気づいたのです。

 そもそも「エグゼクティブコーチ」には、明確な定義があるわけではありません。アメリカの国際コーチ連盟が認証する資格はありますが、弁護士や会計士のように、試験に受かることで自動的になれるものではありません。クライアントであるエグゼクティブの皆さんに、「自分に必要なコーチである」と認めてもらうことで、はじめて成立する職業なのです。

 だからこそ、「自分はいま、エグゼクティブコーチと名乗るに足る仕事ができているのか?」「それだけの実力を身につけているのか?」「クライアントはなにを求めているのか?」「どのようにしてエグゼクティブコーチとしての能力を高めるか?」という問いを、常に自分自身に向ける必要があります。

 伊藤から質問されたあの日を境に、私はエグゼクティブコーチという仕事について真剣に考えるようになりました。

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粟津恭一郎(あわづ・きょういちろう) 

株式会社コーチ・エィ 取締役、中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授、国際コーチ連盟(ICF) プロフェッショナル認定コーチ、一般財団法人生涯学習開発財団 認定マスターコーチ

滋賀県大津市出身。ソニー株式会社にて人事、経営戦略等を担当。イギリス及びドイツに駐在。2004年に株式会社コーチ・エィ入社。主に大企業経営者、次期経営者を対象としたエグゼクティブコーチとして活躍。エグゼクティブコーチとしての活動時間、クライアント数は国内有数の実績を誇る。早稲田大学大学院アジア太平洋研究科国際経営学専攻修了。

 


良い質問をする技術

最高峰のエグゼクティブコーチとして日本で最も多く質問をし、思考を重ねてきた著者が、本質的なテクニックをまとめた『良い質問をする技術』。本連載では、そのエッセンスを抜粋し紹介していきます。

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