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トンデモ人事部が会社を壊す

電通新入社員自殺に見る、過労死事件頻発の理由とは

山口 博
【第55回】 2016年10月18日
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電通新入社員の自殺が労災認定されるなど、労災事故は後を絶たない。私はその原因は、間違った価値観の押し付けにあると思えてならない。なおかつ、画一主義こそチームワークであるという誤認識が悲劇を生み続けるのではないか。異なるモチベーションエリアの個々の特性を生かしてこそ、強い組織はつくれるのだ。

高い企業理念も歪んで伝われば
長時間労働是認に

 東京大学文学部を卒業し電通に入社した1年目の女性社員、高橋まつりさん(当時24)が昨年12月に自殺、このほど三田労働基準監督署が労働災害と認定した。母親の幸美さん(53)が厚生労働省で記者会見し「労災認定されても娘は戻ってこない。いのちより大切な仕事はありません。過労死を繰り返さないで」と訴えた。本人、そして遺族の無念さを思うに余りある。

企業理念が現場で曲解され、「長時間労働をするのが当たり前」という風潮にすり替えられてしまっている企業は、よく見受けられる。社員一人ひとりの状況を見極めず、一律に価値観をゴリ押しすれば、追いつめられる社員が出てくるのは、当然のことだ(写真と本文は関係ありません)

 「君の残業時間は会社にとって無駄」「目が充血したまま出勤するな」「女子力がない」などとパワーハラスメント、セクシャルハラスメントを受けていたとみられ、「誰もが朝の4時退勤とか徹夜とかしている中で新入社員が眠いとか疲れたとか言えない雰囲気」(本人のTwitterより)という状況の中で、深夜勤務が常態化、時間外労働時間は月100時間を超えていたという。

 過労死事件が、こうも後を絶たたないのはなぜなのだろうか。

 私は、その原因は、間違った価値観の押し付けによる、チームワークのはき違えにあると思えてならない。企業にはそれぞれ価値観がある。電通は企業理念として、「Good Innovation.」を掲げ、「『その手があったか』と言われるアイデアがある。『そこまでやるか』と言われる技術がある。『そんなことまで』と言われる企業家精神がある。私たちは3つの力でイノベーションをつくる。人へ、社会へ、新たな変化をもたらすイノベーションをつくってゆく」と説いている。

 企業理念は、その組織の誰もがコミットするべき、核となる価値観だ。言い換えれば、その価値観に違和感を覚えたり、自分には合わないと感じたりしたのならば、その組織からは去って、自分に合う価値観の組織に従事した方がよいというくらいに、重要な要素だ。

 問題は、その価値観が伝言ゲームの如く独り歩きすることだ。「アイデアが出るまで、顧客ニーズに応えるまでやれ」、「深夜勤務(そこまで)してでもやり遂げろ」、「徹夜(そんなこと)は当たり前」という脈絡になってしまうことが問題だ。長時間労働が企業理念ではないはず。労働時間とは全く関係なく、アイデア、技術、企業家精神の必要性を説いているだけなのに、それを現場が勝手に矮小化して、労働時間の長さを求めてしまう。かくして間違った価値観が蔓延する。

 このように申し上げると、必ずと言っていいほど受けるリアクションが、「それができないから、長時間労働になってしまうのではないか」というものだ。私は言いたい。疲弊したマインドと体力と人間関係で、よいアイデアが生まれるか、高い技術をもたらせるか、企業家精神を発揮できるのか?

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山口 博

やまぐち・ひろし/慶應義塾大学法学部政治学科卒(サンパウロ大学法学部留学)、長野県上田市出身。国内大手保険会社課長、外資系金融保険会社トレーニング・シニア・マネジャー、外資系IT人材開発部長、外資系企業数社の人事部長、人事本部長歴任後、現在、コンサルティング会社のディレクター。横浜国立大学大学院非常勤講師(2013年)、日本ナレッジ・マネジメント学会会員。近著に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)がある。

 


トンデモ人事部が会社を壊す

サラリーマンの会社人生のカギを握る人事部。しかし近年、人事部軽視の風潮が広まった結果、トンデモ人事部が続々と誕生している。あっと驚く事例をひもときながら、トンデモ人事部の特徴や、経営陣がすべき対処法などを探っていく。

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