政策を官僚に丸投げしている菅首相が、支持率の回復を目指してか、自分で決断する場面を増やして“リーダーシップ”を濫発しています。しかし、間違った信念に基づいていたり、政策議論が欠如したリーダーシップほど厄介なものはありません。法人税減税と諫早湾堤防の開門を例に、考えてみましょう。
法人税減税を巡る浅はかな発言
実効税率40%と世界でもっとも高い水準にある日本の法人税が、ようやく5%減税されることが決まりました。財務省は財源不足を理由に3%程度の引き下げにしたかったのに対して、菅首相がリーダーシップを発揮して5%下げが決められたように演出されています。
もちろん、法人税減税は経済活性化のために不可欠ですので、それ自体は評価すべきですが、菅首相が「思い切って法人税を5%下げる」と発言したのは、自分の常識の範囲の狭さを如実に示しているように思えます。
日本の法人税率が40%であるのに対して、OECDの平均は26%、中国や韓国は25%、シンガポールや台湾は17%です。5%下げても国際的にはまだ全然高いのです。企業が国を選び、アジアの中で企業の争奪戦が激化している中では、5%下げではまだ全然不十分と言わざるを得ません。
一方、国内的、特に財務省の金庫番的な視点から見れば、法人税率を5%下げると税収が1兆5千億円減少しますので、2年連続で国債発行額が税収を上回る中では大変なことです。消費税増税が先送りされる以上、既存の税の中から財源を捻出して帳尻合わせするしかありません。
つまり、法人税率の5%下げというのは、国際的には大したことないけど、国内的、特に財務省的には大変なことなのです。そう考えると、菅首相の発言は、いかに視野が狭いかを示しているのではないでしょうか。
それ以上に問題なのは、菅首相が財界に対して、法人税率引き下げのメリットを「国内の雇用や投資、若い人たちの給料を上げることに回してほしい」と発言し、経団連会長などに対しては、雇用や設備投資の拡大を「お考えいただきたいというより一歩踏み込んでお約束いただきたい」と迫ったことです。
この非常識な発言は一体何でしょうか。よく日本は官主導と言われますが、それを超えて社会主義国になったかのようです。資本主義経済においてこのような発言をすること自体非常識です。