企業の税負担を軽減すれば
日本経済のパイは本当に増えるか?

 企業の競争力を高めたい経済産業省と、厳しい財政状況の下税収を減らしたくない財務省の対立に対して、菅総理は珍しく自ら、法人税の実効税率を5%減税することを決めた。

 この決定は、納税額が減る企業にとっては朗報だが、国の台所を預かる財務省にとってはかなり厳しい決定だ。財務省は、早速減税分の財源探しに取りかかることになる。

 本来であれば、消費税率の引き上げを持ち出したいところだろう。しかし、民主党政権には、先の参院選で敗北した記憶が鮮明に残っているため、それをすぐに持ち出しても実現性は低いはずだ。

 そこで、現在候補に挙がっているのが、所得税の控除額の引き下げや、相続に係る増税だ。これらは、いずれも個人から徴収する税を増やすものである。今回の決定は、結果的に個人に対して増税を行ない、それを原資にして企業の税負担を軽減する構図になる。

 問題は、法人税減税によってわが国経済が拡大し、パイが増えたことによる個人の分け前が、結果的に増税分を上回るか否かだ。最終的に、増税された分の見返りがないと、個人は増税された分だけ丸損をさせられることになる。

 果たして今回の法人税減税は、わが国経済全体をよくするだろうか、それともその逆だろうか?

 最も重要なのは、「企業の行動」がどうなるかだ。企業が、税負担減少というチャンスを使って競争力を身につけ、経済を成長させることができればよい。しかし、負担減少分を懐に貯め込むだけでは経済は拡大せず、かえって個人部門が割を食ってしまうだけという状況になることも考えられる。