【アメリカが警戒】中国の「半導体支配」がもたらす破壊的インパクトとは?
「経済とは、土地と資源の奪い合いである」
ロシアによるウクライナ侵攻、台湾有事、そしてトランプ大統領再選。激動する世界情勢を生き抜くヒントは「地理」にあります。地理とは、地形や気候といった自然環境を学ぶだけの学問ではありません。農業や工業、貿易、流通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問なのです。
本連載は、「地理」というレンズを通して、世界の「今」と「未来」を解説するものです。経済ニュースや国際情勢の理解が深まり、現代社会を読み解く基礎教養も身につきます。著者は代々木ゼミナールの地理講師の宮路秀作氏。「東大地理」「共通テスト地理探究」など、代ゼミで開講されるすべての地理講座を担当する「代ゼミの地理の顔」。近刊『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』の著者でもある。

【アメリカが警戒】中国の「半導体支配」がもたらす破壊的インパクトとは?Photo: Adobe Stock

半導体をめぐる「静かな戦争」とは?

 半導体は、パソコンやスマートフォン、自動車など、多様な製品の頭脳として不可欠な存在とされています。製品の高度化とともに半導体の役割はさらに拡大し、いまや世界経済と日常生活を支える基盤技術に位置づけられています。しかし、需要の急増や国際関係の変化、自然災害などが重なったとき、半導体の供給不足が世界規模で深刻化する可能性があることが近年改めて浮き彫りになりました。

なぜコロナ禍で半導体不足が起こったのか?

 実際、2020年から始まったコロナ禍によって自動車業界が一時的に生産調整を行ったところ、需要が戻った段階で半導体の在庫が足りず、多数のメーカーが生産ラインを止める状況に追い込まれました。

 半導体の供給網は複層的です。製造にはシリコンウェーハやフォトレジスト、特殊ガスなどの原材料を用い、それを高度な製造装置で加工する工程を経ます。こうした装置や原材料の供給は、一部の企業や特定地域に偏ってきた経緯があります。台湾や韓国、アメリカ合衆国が主要な製造先進地となる一方、東アジアでの地震や台風といった自然災害に加え、中国や台湾を巡る政情不安が顕在化すれば、一気に世界的な半導体不足へと波及する恐れがあります。

 また、レアメタルやレアアースの埋蔵が限られた国に集中していることも問題を複雑にしています。例えばガリウムやゲルマニウムのように中国への依存度が高い素材は、輸出規制などが起きれば供給網全体を揺るがす可能性があるわけです。

国家戦略上の重要課題になっている

 こうした脆弱性は、自動車や家電だけでなく、通信や軍事、人工知能など幅広い分野に波及するため、多くの国が半導体供給を国家戦略上の課題とみなすようになりました。アメリカ合衆国では2022年にCHIPS法が成立し、大規模な補助金や税制優遇を通じて自国内での半導体生産を促す政策を始めています。日本や韓国、EUも対抗し、自国企業による工場建設や研究開発を後押ししています。競争が激化すれば、半導体の国際供給体制が再編される一方、各国の保護主義や貿易摩擦が深刻化する恐れがあります。

テック冷戦と半導体産業支援策―ブロックチェーンへの関心

 もう1つ、米中間の技術競争、いわゆるテック冷戦も重要な要素です。先端製造技術は軍事転用される懸念があり、アメリカ合衆国は中国企業への製造装置輸出を厳しく制限するなど、対中封じ込めを一段と強めています。

 一方で中国も独自の半導体サプライチェーンを構築し、台湾や韓国、東南アジアの生産拠点に影響を及ぼそうとしているとみられます。こうした動きが進むなか、各工程での輸出制限や関税が設定されると、半導体製造のどの段階でも滞りが起きかねません。

 では、これらの脆弱なサプライチェーンをどう改善できるのか。ここで注目されるのがブロックチェーンの導入です。

 もともと暗号資産の基盤技術として注目を集めたブロックチェーンですが、改ざんの困難な分散型台帳として機能する特性はサプライチェーン管理とも相性が良いといわれます。

 例えば部品や素材がどの工程を経て組み立てられ、どのような輸送ルートを辿ったのかを台帳に書き込んでおけば、品質不良や納期遅延の原因を追跡しやすくなります。偽造部品や不正輸出が疑われる場面でも、分散管理された改ざん困難な履歴を確認すれば問題の所在を明確化しやすいのです。また、スマートコントラクト(設定した条件を自動失効する仕組み)を使えば、取引条件を自動執行できるため、契約上の手続きが効率化される利点もあります。

(本原稿は『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』を一部抜粋・編集したものです)