サムスンのテレビと白物家電

 しかし、サムスンにとっての幸運は、米国市場にサムスンに取って代わるだけの企業が他にいないということだ。LGはスマホに関してはサムスンほどの力はなく、世界のスマホ市場でサムスン、アップルに次ぐ大手企業であるHuawei、Oppo、vivoなどの中国企業は、Oppo、vivoについては中国市場を中心に低価格モデルのみで成長している会社であり、Huaweiも最近は高級スマホ市場に製品を出し始めているが、米国市場はこれからという状況である。日本企業もほとんどのメーカーが米国市場に参入していない。よって、サムスンの失敗につけ込めるだけの力のある会社が1社もないという状況である。

 そのぶん、アップルの勢いが増すのではないかという指摘もあるが、iPhoneとgalaxyをはじめとするAndroidではOSが異なるので、多くのユーザーがiPhoneに乗り換えるとは思えないし、米国においても日本と同様に携帯電話キャリアを通じた端末販売が一般的であるが、携帯電話キャリアにしてみても、端末メーカーの一強状態をつくるのは自らの交渉力を弱めるだけなので、したくないだろう。

 その他の家電にしてもそうだ。サムスンはテレビや冷蔵庫などにおいて米国でトップシェアを持っており、今のところ、スマホの発火問題が他のカテゴリーの商品に大きな影響を与えている様子はない。総合家電メーカーとして様々な製品カテゴリーに分散投資をしておいたことが、功を奏した形だ。

サムスンが失敗したタイミングに
市場にいない日本メーカーの機会ロス

 この問題で、一番考えなければならないのは日本メーカーかもしれない。日本の多くの家電メーカーは、技術によって製品の差異化を行っていくということを基本戦略にしており、高付加価値製品が売れるのはいまだに欧米先進国市場である。特に単一マーケットとしては、米国の規模は非常に大きい。しかし、多くの日本メーカーは高付加価値戦略を採ると言いながら、海外戦略としては欧米では弱腰で新興国を中心にと考えている節があるが、これでは戦略がちぐはぐだ。

 高付加価値戦略を採り続けるのであれば、欧米先進国市場は避けて通れない。サムスンが失敗したタイミングに市場にいない日本企業、こちらの失敗の方が長い目で見ると大きいかもしれない。

(長内厚・早稲田大学大学院経営管理研究科教授、ハーバード大学GSAS客員研究員)