長らく代名詞だった「バスクリン」など低収益部門を売却して漢方薬に集中し、倒産寸前から復活を遂げたツムラ。想定どおりなら今期、過去最高益を達成する。中国に依存する原料が高騰傾向にあり、2年ごとに製品単価が下がり続けるなか、今後も成長路線は続けられるのか。同社の戦略とリスクを追った。(「週刊ダイヤモンド」編集部 柴田むつみ)

 「大建中湯(だいけんちゅうとう)は頻繁に処方する。大腸ガンの手術後など、腸管が麻痺して起こる膨満感や悪心などに有効と実感している」(ある消化器外科専門医)。別の神経内科医は「アルツハイマー型認知症による妄想や暴力を抑えるクスリとして抑肝散(よくかんさん)が知られるようになり処方が増えている」と言う。

 このとおり近年、西洋医学を基礎とする日本の医療現場で、漢方薬が併用されるケースが徐々に増えている。漢方薬は、中国の医学を起源とし、診断法などが日本で独自に進化した「漢方医学」で用いられるクスリの総称である。

 薬草など多数の有効成分を含む生薬を組み合わせて作られ、その数は保険収載されているだけでも140以上に上る。冒頭の大建中湯、抑肝散も漢方薬の一種だ。生薬を煎じて飲む方法もあるが、その煎じ薬を乾燥させて製剤した医療用漢方薬が一般的な医療現場では使われている。

 ツムラは、医療用漢方薬の売上高883億円(2009年度)で、市場シェアの8割を握るトップメーカーである。1976年に漢方薬に健康保険が使えるようになり、売り上げは徐々に拡大。販売量は右肩上がりで増えてきた(右グラフ参照)。

 しかし、「ようやくここまで持ち直してきた」と芳井順一社長が感慨深げに振り返るように、その道のりは平坦なものではなかった。

 ツムラの創業は1893年、明治時代の後期にさかのぼる。1930年に発売された入浴剤「バスクリン」が爆発的にヒットし、一般にもなじみの深い企業となった。だが、この伝統企業は90年代後半に二つの出来事により「倒産の一歩手前」(芳井社長)という存亡の危機を迎える。