しかし、ベーシックインカムは実現しないだろう

 先入観を捨てて考えてみると、ベーシックインカムは富の再配分の仕組みとして、またいわゆるセーフティー・ネットとして理想に近い制度だと思える。日本でも是非実現したい。

 しかし、率直に言って、ベーシックインカムは日本で実現しないだろう。

 なぜか。それは、制度がシンプルすぎて官僚の仕事と権限が減るからだ。たとえば、社会保険庁も、公的な年金の運用も、雇用保険も不要だとなると、厚生労働省は大いに抵抗するだろう。生活保護のような自治体にとっては余計な荷物的な仕事であっても、これがなくなって、権限を手放すことになるとすれば抵抗があるかも知れない。

 ただし、ベーシックインカムの考え方は政策を考え、制度を設計する上で生かすことができる。

 政策を評価する際に、「シンプルさ」「公平さ」「自由さ」「格差是正効果」「低コストな制度」の五つの視点を持つことが有効だ。

 たとえば、現在の公的年金制度は、複雑で、世代間の公平を欠いていて、受給したお金の使い方は自由だが、ここしばらくは相対的に豊かな高齢世代に富を移転し、運営コストが大変高いという意味で、上手くできている制度ではない。

 逆に、官僚あるいは、官製情報に頼るメディアからの評判はすこぶる悪いが、子供手当は、仕組みが単純で、「子供を持っている人」という区別が不公平かも知れないが、使い道も自由で(借金を返してもいいし、パチンコに使ってもいいではないか!)、低所得者への再配分になっているし、運営コストは安いから、そう悪い制度ではない。「バラマキだ」という批判があるが、公共事業のように偏ったお金の使い方をするよりは、公平にばらまく方がずっといい。

 ベーシックインカムについては、現金による給付であることや、労働など何らかの我慢の対価としてでなくお金を渡すことなどに「抵抗感」を持つ人がいるかも知れないが、よく考えてみて欲しい。そう悪いものではないはずだ。

 筆者は、現在のもろもろの制度を「ベーシックインカム的」に徐々に変えていけばいいと思っている。